メリダ (スペイン)

メリダ

スペイン西部、エストレマドゥーラ州に位置するメリダは、バダホス県のムニシピオであり、同州の州都としての重要な役割を担っています。2018年時点での人口は約59,352人ですが、その真価は古代ローマ時代に遡る豊かな歴史遺産にあります。

輝かしい歴史の始まり

メリダは、紀元前25年に皇帝アウグストゥスの命によって「エメリタ・アウグスタ」という名の植民市として建設されました。この都市の創設目的は戦略的なものであり、グアディアナ川を渡る重要な橋の防衛拠点とすることでした。都市の初期の入植者は、ローマ軍の退役兵である第5アラダウエ軍団と第10ゲミナ軍団の兵士たちでした。彼らの貢献により、エメリタ・アウグスタは急速に発展し、やがて広大なローマ属州ルシタニアの州都に定められました。これにより、メリダはローマ帝国の西方における最も重要な都市の一つへと成長を遂げ、政治、経済、文化の中心地としての地位を確立しました。

古代ローマ建築の宝庫

ローマ時代の最盛期を経て、メリダにはスペイン国内でも類を見ないほど数多くの壮大なローマ建築が良好な状態で現存しています。これらの貴重な遺跡群は、その歴史的価値と保存状態の良さから、「メリダの考古遺産群」としてユネスコの世界遺産に登録されています。都市を歩くと、まるで古代ローマ時代にタイムスリップしたかのような感覚に陥ります。

主要なローマ時代の遺跡には以下のものがあります。

ローマ劇場 (Teatro romano): 紀元前24年にアグリッパによって建設されたこの劇場は、現在でもその美しい姿を保ち、夏季には国際的な古典演劇フェスティバルの会場として利用されています。音響効果も考慮された設計は、当時の技術の高さを示しています。
円形劇場 (Anfiteatro romano): 紀元前1世紀に造られた円形劇場では、剣闘士の試合や猛獣狩りといった見世物が行われ、多くの観衆が熱狂しました。劇場のすぐ隣に位置しており、当時の人々の娯楽生活を知る上で重要な遺跡です。
円形競技場 (El circo): 都市の郊外に位置するこの広大な施設は、戦車競争などの競技が行われた場所です。その規模から、当時の都市の賑わいや人々の情熱が伝わってきます。
ローマ橋 (Puente Romano): グアディアナ川に架かるこの石造りの橋は、全長約800メートルにも及び、ローマ時代の工学技術の傑作です。建設から2000年以上を経た現在も、歩行者専用の橋として市民生活に利用されており、都市のシンボルとなっています。
アルカサバ (Alcazaba): ローマ時代ではなく、835年にムーア人（ウマイヤ朝）によって築かれた砦です。グアディアナ川に架かるローマ橋を守るための重要な戦略拠点として機能しました。内部にはローマ時代の貯水槽が再利用されています。
ミラグロス水道橋 (Acueducto de Los Milagros): 「奇跡の水道橋」と呼ばれるこの水道橋は、サラル湖から都市へ水を供給するために建設されました。特に橋脚の高さと連なるアーチの壮大さは圧巻で、その堅牢な構造はローマの水道技術の高さを物語っています。
ディアナ寺院 (Templo de Diana): フォーラム地区の中心にあったとされる神殿です。現在は、ルネサンス期に建てられた宮殿の一部として組み込まれていますが、コリント式の円柱などが古代の姿を伝えています。
トラヤヌス帝の凱旋門 (Arco de Trajano): ローマ時代のフォルムへの入口の一つであったと考えられている凱旋門です。ローマ時代の都市景観を構成する重要な要素の一つです。

これらの遺跡から発掘された彫刻、モザイク、碑文などの豊富な遺物は、国立ローマ博物館に収蔵・展示されており、古代エメリタ・アウグスタの生活や文化、行政について深く学ぶことができます。

世界遺産としての価値

「メリダの考古遺産群」が世界遺産に登録された背景には、以下の登録基準を満たしていることが挙げられます。

(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠: 古代ローマの属州都市「エメリタ・アウグスタ」は、その都市計画、インフラストラクチャー、公共建築、そして日常生活を伝える遺物において、ローマ帝国の植民市がいかに建設・運営されたかを示す極めて良好で稀な証拠を提供しています。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例: メリダの遺跡群は、ローマ帝国による大規模な都市計画、高度な建設技術、そして公共建築における洗練された建築様式の優れた例証です。劇場、円形劇場、水道橋、橋などは、ローマ時代の工学と建築の傑作であり、人類史における重要な時代の景観を形作っています。

これらの基準が示す通り、メリダの遺跡は単なる古い建物ではなく、古代ローマ文明の繁栄とその影響力を理解するための貴重な鍵となっています。

現代のメリダと名称の広がり

歴史的な遺産を持つ一方で、メリダはエストレマドゥーラ州の州都として、現代の行政と文化の中心地でもあります。また、スポーツの分野では、サッカークラブのADメリダがこの都市を本拠地として活動しています。

興味深いことに、新大陸であるベネズエラのメリダ州の州都メリダや、メキシコのユカタン州にある州都メリダは、いずれもスペインのこのメリダにちなんで名付けられたものです。メリダ市内には、「世界のメリダ広場」と呼ばれる場所があり、そこにはスペイン、ベネズエラ、メキシコの三つのメリダを記念するオベリスクが建てられています。これは、地理的に離れた都市間を結ぶ歴史的な繋がりと友好を象徴しています。

メリダは、古代ローマの栄光を今に伝える壮大な遺跡群と、現代都市としての機能、そして新大陸との繋がりを持つ、多様な魅力に溢れた都市と言えるでしょう。

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