メルキゼデク

メルキゼデク：聖書の謎多き祭司王

メルキゼデクは、旧約聖書の『創世記』に登場する人物であり、「いと高き神の祭司」かつ「サレムの王」として紹介されています。伝統的に「サレム」はエルサレムと同一視されており、メルキゼデクはエルサレムの王であり祭司であったと考えられています。アブラハムにカバラを伝授したという伝承も存在します。

名前の由来とエルサレムとの関係

メルキゼデクという名前は、ウガリット文書に登場するカナン神ツェデクに由来すると考えられています。「ツェデク」はエルサレムの王の称号、あるいは異名として代々受け継がれていたようです。『ヨシュア記』には、アドニ・ツェデクというエルサレム王が登場します。

アブラハムとの出会い

『創世記』には、アブラハムがエラム王との戦いに勝利し、帰還する際にメルキゼデクが現れ、パンとぶどう酒で祝福する場面が描かれています。この出来事は、アブラハムの子孫にカナンの地が与えられるという教義の根拠の一つとなっています。アブラハムとメルキゼデクは互いに敬意を払い、至高の神に対する信仰を共有していたと考えられます。

『創世記』以外の記述と解釈

メルキゼデクの名前は、『詩篇』にも登場します。注釈家は、この箇所をイスラエルの王権を象徴するものとして解釈しています。ハザルは、メルキゼデクをノアの息子セムと同一人物とみなし、祭司職がセムからアブラハムに譲られたと考えました。また、ミドラーシュによれば、エルサレムという都市名の由来にもメルキゼデクが関わっています。エルサレムにあった「神殿の丘」と呼ばれる山を、アブラハムは「イェラエ」（畏怖）、メルキゼデクは「サレム」（平和）と名付け、この二つが合わさって「エルサレム」となったとされています。

アレクサンドリアのフィロンは、メルキゼデクの中にロゴスの顕現を見ており、初期キリスト教徒もこの考えを継承し、メルキゼデクを永遠の祭司として理解しました。

聖書外典におけるメルキゼデク

グノーシス派では、メルキゼデクは平和と正義を司る天使とされ、偽典である第二エノク書では、天使軍団の力天使の一人として登場します。

メルキゼデクは、聖書において様々な解釈がなされてきた謎多き人物です。祭司、王、そして神の化身として、その存在は多くの人々に影響を与え続けています。

参考文献

中川健一『クレイ聖書解説コレクション』

関連項目

アブラハム

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