メルブ遺跡

メルブ：シルクロードのオアシス都市とその歴史

トルクメニスタン、カラクム砂漠の中央に位置するメルブ（ペルシア語: مرو, Merv/Marw, Mary）は、中央アジア最大の遺跡として知られています。現地ではマル（Mar）、またはマルイ、マリイと呼ばれています。1999年にはトルクメニスタンで初めての世界遺産に登録され、その歴史的、文化的価値が世界的に認められています。

メルブはかつて、ホラーサーン地方の中心都市の一つであり、シルクロードの要衝として栄えました。人口は100万人に達したとも言われ、東西交易の中継地として繁栄を極めました。歴史家の榎一雄氏は、南北朝時代の梁の職貢図に記された「未国」をメルブと比定する説を発表しており、当時の東アジアとの交流も示唆されています。特に、梁の武帝・蕭衍が仏教信徒として知られていたことから、仏教を媒介とした交流が考えられます。

古代からイスラーム時代

紀元前6世紀にはアケメネス朝ペルシャの支配下に入り、「マルグ」と呼ばれ、オアシス都市として発展を始めました。マケドニア王国時代には「マルギアナ」と呼ばれ、円形の日干レンガ城壁に囲まれた12haの都市「エルク・カラ」が建設されました。

その後、セレウコス朝を経て、パルティア時代にはエルク・カラを包含する、一辺1.8～9kmの方形に近いプランの「ギャウル・カラ」が築かれました。約3.5km²の面積を持つこの都市は、城壁に囲まれ、十字に交差する道路で街区が形成されていました。さらにその外側にも城壁が巡っており、総面積は60km²に及んだと推測されています。ギャウル・カラは、7世紀のサーサーン朝滅亡まで機能していました。

1世紀頃には仏教が伝来し、城壁の南東隅には仏寺跡とみられる遺跡が残っています。仏塔や僧院、8.5cmの仏像の座像、サンスクリット語で書かれた白樺樹皮の経文なども発見されており、当時の仏教文化の盛況を示しています。

7世紀、アラブ軍のホラーサーン遠征によってイスラームが伝来し、メルブはアラブの支配下に入りました。8世紀頃からはアラビア語でマルウ・アッシャーヒジャーン（Marw al-Shāhijān）と呼ばれるようになりました。マー・ワラー・アンナフル（アム川以東の地域）やアフガニスタン遠征の拠点としても機能しました。

セルジューク朝時代の繁栄

セルジューク朝時代（1038～1194年）には、「ギャウル・カラ」の西に「スルタン・カラ」が建設されました。この時代はメルブが最も栄えた時代で、8つの図書館に数万冊の蔵書があり、天文台も建設されました。有名な詩人で数学者でもあったウマル・ハイヤームも、メルブの天文台主任として活躍しました。スルタン・サンジャルはメルブを宮廷の所在地とし、1118年の即位後は、ホラーサーン地方を含むセルジューク朝東部の首都となりました。青タイルで装飾されていたサンジャルの廟も、スルタン・カラの中央に建てられました。この廟は、モンゴル軍の破壊や地震にも耐えた堅牢な建築物で、当時の高度な建築技術を物語っています。

モンゴル帝国による破壊とその後

1219年からのモンゴル帝国によるホラズム・シャー朝征服において、メルブは甚大な被害を受けました。1221年、チンギス・ハンの皇子トゥルイ率いるモンゴル軍はメルブを攻撃し、住民の大半を殺害、都市を破壊しました。史料によると、殺害された人数は70万～130万人とも伝えられています。この破壊はメルブの繁栄に終止符を打ちました。その後、イルハン朝、チャガタイ・ハン国、ティムール朝、ウズベク人の支配を受け、度重なる破壊と復興を繰り返しました。18世紀には、バイラム・アリ・ハンというガージャール族の王子がメルブを統治し、要塞を増築するなどしましたが、ブハラ・ハン国の攻撃により再び破壊され、住民の大半が移住させられました。

19世紀以降

19世紀にはヒヴァ・ハン国の支配下に入り、1884年にロシア帝国によって併合されました。ロシア軍将校アリハノフによる巧みな外交によって、メルブは比較的無血でロシアの支配下に入りました。その後、メルブは徐々に放棄され、遺跡として残されました。

世界遺産登録

メルブ遺跡は、建築、技術、都市計画などの発展を示す重要な遺跡として、世界遺産登録基準(2)(3)を満たし、1999年に世界遺産に登録されました。現在も発掘調査が進められ、シルクロードのオアシス都市としてのメルブの歴史が明らかになりつつあります。

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