メレス・ゼナウィ

メレス・ゼナウィ・アスレス：エチオピアを揺るがした革命家と改革者

メレス・ゼナウィ・アスレス (1955年5月8日 - 2012年8月20日) は、20世紀後半から21世紀初頭にかけてエチオピアの歴史を大きく変えた政治家です。彼はエチオピアの暫定大統領、首相、そしてエチオピア人民革命民主戦線(EPRDF) 書記長を歴任し、同国の政治・経済に多大な影響を与えました。その生涯と業績、そして残された課題を紐解きます。

神童から革命家へ

1955年、アドワで生まれたゼナウィは、幼少期からその高い知性で周囲を驚かせました。ウィンゲート将軍高校を首席卒業し、皇帝ハイレ・セラシエ1世から奨学金を得て、ハイレ・セラシエ大学(現アディスアベバ大学)で医学を学ぶなど、順風満帆なスタートを切ります。しかし、1974年のクーデターを機に学業を中断。反政府組織ティグレ人民解放戦線(TPLF)に参加し、革命の道へと歩みを進めます。

1985年には、TPLFの前衛党としてティグレ・マルクス・レーニン主義連盟（MLLT）を結成。その後、TPLFを率いると共に、他のゲリラ組織と連携してEPRDFを結成し、書記長に就任。1991年5月、メンギスツ・ハイレ・マリアム政権を打倒し、エチオピアの政権を掌握しました。7月23日には暫定大統領に就任します。

経済成長と権威主義的統治

1995年、議院内閣制の憲法制定に伴い首相に就任したゼナウィは、15年以上にわたってエチオピアを統治しました。彼の政策の下、エチオピアはアフリカ有数の経済成長を遂げました。政府企業の民営化、共同農場の解消、土地法の改革、そして外資誘致など、市場経済への転換を推し進めたことが功を奏しました。セメント不足問題への対応として、50億ドルもの投資を行い、東ゴジャム地域へのセメント工場建設などを推進しました。

しかし、その一方でゼナウィ政権は権威主義的な統治を行い、人権団体からは批判が相次ぎました。少数民族の抑圧、報道規制、野党の活動規制など、民主主義とは程遠い政治体制が敷かれたのです。アフリカ最大の人権抑圧者とさえ非難されました。2003年には日本の国士舘大学から名誉博士号を授与されています。

民族連邦主義とアフリカの未来

民族紛争の抑制を目指し、ゼナウィは「民族連邦主義」という政策を導入しました。民族間の対立と協調の可能性を同時に孕むこの政策について、彼は「脅威と捉えるか、利益と捉えるかによって結果が変わる」と述べています。経済発展とエチオピア全体の統合が進むことで、民族間の問題は徐々に解決すると考えていたのです。

2012年1月には、中国の援助で建設されたアフリカ連合本部の落成式に出席し、西洋とは異なる中国モデルによるアフリカの復興を絶賛しました。しかし、同年8月20日、ベルギーでの感染症治療中に57歳で急逝。その死は、エチオピアのみならず、アフリカ全体に大きな衝撃を与えました。

ゼナウィの遺産：光と影

メレス・ゼナウィ・アスレスは、エチオピアの近代化と経済発展に貢献した一方、権威主義的な統治と人権問題という暗い影も残しました。彼の功績と罪悪を客観的に評価し、そこから未来への教訓を引き出すことが、私たち現代人の重要な課題と言えるでしょう。彼の政策や思想は、現在もなお、エチオピアやアフリカの政治・経済に影響を与え続けています。彼の死後も、エチオピアの政治状況は複雑さを極めており、ゼナウィが残した遺産は、現在もなお議論の的となっています。

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