モアビ

モアビ（Baillonella toxisperma）とは

モアビ（学名: Baillonella toxisperma）は、アカテツ科に属する高木です。中部アフリカを中心に分布し、日本では「洋桜」としてサクラ材の代用に使われています。しかし、現地では果実や種子の仁が食用に、また様々な部位が薬用として利用されている、多用途な植物です。

名称

モアビという名前は、ガボンやコンゴ共和国の複数のバントゥー語に共通して見られます。

ガボン: シラ語、ヴァラマ語、ヴング語、プヌ語、ルンブ語、サング語、ングビ語
コンゴ共和国: ヴィリ語、ヨンベ語、ルンブ語、プヌ語

その他、ナイジェリアやカメルーンなどでも様々な現地語名が存在しますが、詳細はwikt:モアビ#翻訳を参照ください。

地域ごとの呼称例:

ナイジェリア: オゴジャ地方では「ode, ofri」、Itungでは「oaat, osat」、Kiakaでは「ofor」など。
カメルーン: 「nùmgù, nounegou, noumgou」など。
コンゴ民主共和国: カサイ地域では「dimpampi」、Kihongoでは「moye」など。

分類

モアビの学名 Baillonella toxisperma は、1890年にフランスの植物学者ジャン・バティスト・ルイ・ピエールによって記載されました。かつては Mimusops djave という学名で呼ばれることもありましたが、これは1897年にアドルフ・エングラーが、ジャン・マリー・アントワーヌ・ド・ラヌッサンの命名した Bassia djave からの組み替えとして扱ったものです。しかし、この Bassia djave の記載には形態に関する記述が不十分で、非正式名とされています。

分布

モアビは、ナイジェリアから熱帯アフリカ西中央部にかけて広く分布しています。具体的には、ナイジェリア、カメルーン、ガボン、コンゴ共和国、アンゴラ（カビンダ州）、コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国で見られます。

生態

モアビは、ナイジェリアからアンゴラ領カビンダ州にかけての常緑湿潤林に生育します。特にカメルーンやガボンの森林に多く、原生林の中で見られます。雨季の初めに落葉し、果実が実る頃には芳香を放つようになります。

ガボンでは最大級の巨木の一つであり、葉は花が咲く前に落ちます。果実はサル、イボイノシシ、ゾウなどの動物にとって貴重な食料源となっています。コンゴ地域でも最大級の巨木の一つであり、湿潤林に豊富に見られますが、土壌の性質によっては生育が限られる場所もあります。コンゴ民主共和国では、マヨンベ地方の森やカサイ地域の拠水林に多く見られます。

形態的特徴

モアビの形態的な特徴は以下の通りです。

樹幹: 円筒形で通直、直径2メートルに達する。基部はわずかに肥厚。
樹皮: 厚くて粗く、深く裂け、白色の乳液を出す。
葉: 単葉で全縁、裏面に毛があり、小枝の先に束生。披針形の托葉も束生。葉身は倒披針形で、最大30×10センチメートル。先端は円形だが後に急に鋭く尖る。葉脈は下方に突出。
葉柄: 細長く、3-4センチメートル。
花: 両性花で4室。萼片は8つ（外面と内面にそれぞれ4つ）。花冠は筒状で8裂。雄蕊は8本、軟毛に覆われた仮雄蕊が8本。子房は単胚珠。小花梗に軟毛があり、長さ3センチメートル。
果実: 球状。
種子: 卵形で殻が厚く硬い。細い外被と、縦方向の腹部縫合部を持つ。仁には油脂が含まれる。

利用

モアビは、木材、食用、薬用として様々な用途で利用されています。

木材

日本では、モアビはアフリカザクラ、アフリカンチェリー、洋桜という名前で流通しており、赤味のある材が特徴です。大径木であるため大きな材が得られ、サクラ材の代用材として用いられます。しかし、サクラ材よりも重く硬く、マコレ（Tieghemella spp.）と似た雰囲気を持っています。

心材: 赤味が強い茶褐色
辺材: 灰白色系
木目: かなり詰まっており、杢（玉杢、泡杢）が見られることもある
木質: 緻密で、気乾比重0.80-0.88

加工はしやすいものの、細かい針状の木屑が出て、目鼻を刺激する点には注意が必要です。用途としては、化粧板、テーブル天板、床板、唐木細工、装飾、外装、家具などがあります。ガボンでは、輸出用木材として2番目に重要な樹種です。

食用

モアビの果実（ガボンの現地語ではoyawe, dyabi, ndjabé, éabé, liyavi, liyèbiなど）は食用にされ、種子の仁から食用の油脂も得られます。

薬用

モアビは、様々な薬用としても利用されます。

ガボン: 仁の油脂を病気の際に揉み込む形で使用
コンゴ共和国: 樹皮の煎じ薬は呼吸器系や胃腸の病気に使用され、催吐作用も持つ。分娩後のケアや膣感染症にも用いられる。リウマチや腰痛には煎じ薬の蒸気浴や搾りかすを擦る。樹液は止血や傷の癒し、歯茎の保護に使用。乾燥させた樹皮の粉末はパーム油と混ぜて子どもの体に擦りつけたり、てんかんの発作予防に額にあてたりする。
* カメルーン: 油脂を皮膚病やリウマチに、樹皮を不妊症や婦人科疾患に利用。

保全状況

モアビは、1998年にIUCNレッドリストで危急種（VULNERABLE）に指定されました。主な脅威は、木材としての過剰伐採です。分布域の大部分で減少傾向にあり、保護が必要とされています。

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