モラリスト

モラリストとは

モラリスト（仏: moraliste）とは、人間の本質や行動を深く洞察し、その考察を断章や箴言のような、連続性のない独特な形式で表現する人々を指します。特に16世紀から18世紀にかけて、モンテーニュ、パスカル、ラ・ロシュフコー、ラ・ブリュイエールといったフランス語圏の思想家たちがこの分野で重要な役割を果たしました。彼らの人間性への探求は、フランス文学における重要な伝統の一つとされています。

概要

モラリストという言葉は、ラテン語の「mos, moris」（フランス語の「mœurs」）に由来し、人間の習慣、風習、性格、生き方などを意味します。モラリストは、人間の行動や振る舞い全般を深く考察します。ここで重要なのは、「道徳家」（moralisateur）とは異なる概念であるという点です。日常的には混同されることもありますが、モラリストはまず人間の実態を記述的に捉えようとするのに対し、道徳家は教訓的な道徳を説くという点で対極に位置します。

日本では、渡辺一夫や河盛好蔵といったフランス文学者による翻訳・研究が有名です。その他にも、関根秀雄、前田陽一、内藤濯、大塚幸男、齋藤磯雄、松浪信三郎、田辺保といった研究者がモラリストの研究に貢献しています。

モラリストの作風

モラリストの作品には、断続的な形式が用いられるという特徴があります。モンテーニュの随筆『エセー』、ラ・ロシュフコーの『箴言集』、ラ・フォンテーヌの『寓話集』、ラ・ブリュイエールの『人さまざま』などが代表的な例です。これらの作品は、予め決められた構成に従うことなく、自由に思考が展開されます。

モラリストは、構築された論理や規範的な言説を避け、権威や学識に頼るような態度にも異議を唱えます。彼らは、人間の行動の多様性や、現実世界の複雑さを、断片的な形式を通して表現しようとします。モンテーニュのように無秩序さを強調したり、ラ・ロシュフコーやラ・ブリュイエールのように簡潔な描写を重視したりするのも、このような意図によるものです。

歴史におけるモラリスト

19世紀の批評家たちは、モラリストの出現を、戦乱や無秩序がもたらした唯物論や道徳的無関心への反動、そして、前の世紀の粗野さに対する「洗練された社会」の発達という二つの側面から捉えました。しかし、この見方は、モラリストと道徳家の概念を混同する危険性を含んでいます。

モラリストの記述形式を考察すると、その意味には両義性があることがわかります。切り離された断片は、発話者がいないために、ほぼ引用のように機能し、ラ・ロシュフコーの「箴言」のようなテクストは、様々な解釈を可能にします。モラリストは、必ずしも宗教的な反動から生まれたのではなく、快楽主義に近い側面も持っているのです。

また、モラリストの作品は、ヴェネツィアの外交官が書いた「Relazioni」という、フランスの廷臣たちの特徴を描写した文書に影響を受けたと主張する人もいます。これは、ラ・ブリュイエールの『人さまざま』に特に当てはまる「鍵」仮説と呼ばれ、登場人物が当時の実在の人物をモデルにしているというものです。しかし、ラ・ブリュイエール自身は、このような歴史的な読み方を拒否しています。

モラリストの起源を正確に捉えるためには、フロンドの乱後の17世紀後半、ルイ14世の治世に限定することが重要です。モラリストたちは、英雄とその神話の「破壊」を報告し、その過程に加わりました。このような背景から、悲観主義や、価値や意味を疑問視する姿勢が生まれたと考えられます。

モラリストの文体

モラリストの文体の特徴を理解するためには、彼らと異なる作家たちの作品と比較することが有効です。一見するとモラリストに近い作品を書いた作家は多数いますが、彼らの論述や思考の様式は根本的に異なります。モラリストでない作家たちは、持続的な論証を通じて、自らが確信する「真実」を断定的に述べる傾向があります。

一方、モラリストは断片的な形式を採用することで、読者に思考の余地を与え、断片間の繋がりを再構築させることを意図しています。この形式は、真実が流動的で、不安定なものであるという認識を表現するのに適しており、読者に現実の不確かさを感じさせます。

モラリストの姿勢は、モンテーニュによって確立され、『エセー』は17世紀の作家たちに広く読まれました。パスカルの『パンセ』は、キリスト教擁護の草稿が断片的な形式で残ったため、歴史的な偶然からモラリスト文学に結び付けられています。18世紀には、ラ・ロシュフコー、ラ・ブリュイエール、ラ・フォンテーヌによって確立されたジャンルが、多くの模倣者や継承者によって引き継がれました。

モラリスト概念の拡張

モラリストの定義は、以下の2つの方向に拡張することが可能です。

1. 形式を重視しないモラリスト: ラ・ロシュフコーやラ・ブリュイエールの同時代人で、人間の振る舞いについて書いたが、秩序だった形式で書いた人々です。ピエール・ニコル、ジャック・エスプリ、サン＝テヴルモン、ルネ・デカルトなどが含まれます。彼らはモラリストと主題を共有しますが、形式が異なるため、厳密にはモラリストとは区別されます。

2. 哲学的な論考に頼らないモラリスト: 人間の振る舞いや人間そのものについて、哲学的な論考形式を取らず、体系や証明を気にせずに書いた人々です。ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルク、フリードリヒ・ニーチェ、アルベール・カミュ、パスカル・キニャールなどが含まれます。彼らは短い形式を使用しますが、17世紀のモラリストとは異なる状況から生まれているため、同一視することは適切ではないという見方もあります。

代表する人物

ミシェル・ド・モンテーニュ
ブレーズ・パスカル
フランソワ・ド・ラ・ロシュフコー
ジャン・ド・ラ・ブリュイエール
ヴォーヴナルグ
ニコラス・シャンフォール
アントワーヌ・リヴァロル
ジョセッフ・ジュウベール
アラン

参考文献

Paul Bénichou, Morales du Grand Siècle, Gallimard, 1948
Louis van Delft, Le Moraliste classique. Essai de définition et de typologie, Droz, 1982
Jean Lafond, Moralistes du XVIIe siècle, Robert Laffont, coll. « Bouquins », 1994
Bérengère Parmentier, Le Siècle des moralistes. De Montaigne à La Bruyère, Seuil, 2000
Marc Escola, La Bruyère, Champion, 2 vol. (1. Brèves questions d'herméneutique ; 2. Rhétorique du discontinu), 2000
Cyril Le Meur, Les moralistes français et la politique à la fin du XVIIIe siècle, Honoré Champion, 2002
Cyril Le Meur, Trésor des moralistes du XVIIIe siècle, Le Temps des Cerises, 2005
Louis Van Delft, Les Spectateurs de la vie. Généalogie du regard moraliste, Les Presses de l’Université Laval, 2005

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