モロス (恐竜)

モロス：北アメリカ最古のティラノサウルス上科

モロス( Moros intrepidus) は、約9600万年前(白亜紀後期セノマニアン)の北アメリカ大陸に生息していたティラノサウルス上科に属する獣脚類です。ユタ州シーダーマウンテン層で発見された化石は、これまで北アメリカで発見された最古のティラノサウルス上科の化石よりも約1500万年古く、同大陸におけるティラノサウルス類の進化史を大きく塗り替える発見となりました。

発見と命名

2013年、古生物学者Lindsay Zannoらのチームがユタ州シーダーマウンテン層の発掘調査中に、丘の中腹から露出した脚の骨を発見しました。10年以上にわたる発掘調査の成果であり、この化石はモロス・イントレピドゥスのホロタイプ標本(NCSM 33392)として登録されました。ホロタイプ標本には大腿骨、脛骨、中足骨の一部、趾骨が含まれています。さらに、別の標本(NCSM 33393)として前上顎骨の歯1本も発見されています。

属名 Moros はギリシャ神話に登場する「迫り来る破滅」を意味する言葉に由来し、北アメリカ大陸におけるティラノサウルス上科の出現を象徴しています。種小名 intrepidus はラテン語で「大胆な」「不屈の」を意味し、モロスが北アメリカ大陸へのティラノサウルス上科の進出の先駆けとなったという仮説を反映しています。2019年に新属新種として正式に記載されました。

モロスの形態

モロスは小型の体格で、推定体重は約78kg、脚の長さは約1.2mと推定されています。発見された個体の年齢は約6～7歳と推定されており、まだ成長途中であったと考えられます。注目すべきは、その脚の構造です。モロスはアークトメタターサル構造と呼ばれる、第3中足骨が第2中足骨と第4中足骨に挟まれる特殊な構造を持っていました。この構造は、ティラノサウルス上科の特徴の一つであり、セノマニアン期の北アメリカ大陸において既にこの構造を持つティラノサウルス上科が出現していたことを示しています。また、モロスの中足骨の比率は、白亜紀後期のティラノサウルス上科よりもオルニトミモサウルス類に近いものでした。これは、モロスが高い走行能力を持っていた可能性を示唆しています。

分類と進化

系統解析の結果、モロスはシオングアンロンやティムルレンギアといったアジアの基盤的なティラノサウルス上科に近縁であることが示唆されています。これは、モロスがアジアから北アメリカ大陸へ渡来した可能性を示唆する重要な発見です。小型で走行能力が高く、発達した感覚器官を持つティラノサウルス上科は、白亜紀前期末アルビアン期までに北アメリカ大陸へ侵入したと考えられていますが、頂点捕食者としての地位を確立するには、適切な環境と、アロサウルス上科などの競合の減少が必要だったと考えられています。モロスは、その進化過程における重要な中間段階を示す証拠と言えるでしょう。

まとめ

モロスは、北アメリカ大陸におけるティラノサウルス上科の進化を理解する上で極めて重要な発見です。その小型の体格、高度な走行能力、そしてアジアとの系統的な近縁関係は、ティラノサウルス類の起源と大陸間の生物移動を解き明かす上で貴重な手がかりを与えてくれます。今後の研究によって、モロスに関する知見はさらに深まり、ティラノサウルス類の進化史全体像の解明に大きく貢献するでしょう。

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