モースバッハ

モースバッハ：歴史と自然が調和するドイツの古都

モースバッハ（Mosbach）は、ドイツ連邦共和国バーデン＝ヴュルテンベルク州北部に位置する、ネッカー＝オーデンヴァルト郡の郡庁所在地であり、同郡最大の都市です。ハイルブロンの北約34km、ハイデルベルクの東約58kmに位置し、周辺市町村の中級中心都市としての役割も担っています。1976年以降、大規模郡都市に指定され、ライン＝ネッカー広域連合にも含まれています。

地理

モースバッハは、オーデンヴァルト南部の支脈沿い、バウラント地方との境となるエルツ川の渓谷に位置しています。エルツ川はネッカー川の支流であり、市内ネッカーエルツ地区でネッカー川に合流します。この地域は、ネッカータール＝オーデンヴァルト自然公園およびユネスコのベルクシュトラーセ＝オーデンヴァルト地質公園に属しており、豊かな自然に恵まれています。

市の構成

モースバッハ市は、中心地区、ディーデスハイム地区、ロールバッハ地区、ネッカーエルツ地区、ライヒェンブーフ地区、ザッテルバッハ地区の6つの主要地区から構成されています。これらの地区に加え、ニュステンバッハやヴァルトシュタットといった独立した集落、シュレックホーフ、タンホーフなどの居住区も存在し、市域内には多様な景観が広がっています。

周辺地域との連携

モースバッハは、リムバッハ、ファーレンバッハ、エルツタールなどの市町村と隣接し、エルツタール、ネッカーツィンメルン、オーブリヒハイムとは行政共同体を形成しています。また、ハイデルベルクとハイルブロンという2つの上級中心都市の中間に位置し、周辺地域の中級中心都市として、アグラスターハウゼン、ビリヒハイムなど多くの市町村をその影響下に置いています。さらに、エーバーバッハ、ビーナウ、ネッカーゲラハなどの都市とも連携し、広域的な地域運営に貢献しています。

気候

モースバッハは、ドイツで最も温暖な地域の一つであるオーバライン地溝に近接しており、温暖な気候が特徴です。ただし、オーデンヴァルトの影響により、年間降水量はドイツ平均の約2倍に達し、特に冬季には降水量が多くなります。

水害の歴史

モースバッハでは、ネッカー川の洪水による被害がたびたび発生しています。特にネッカーエルツ地区とディーデスハイム地区は水害の常襲地となっており、水位計の測定値が重要な指標となっています。1993年の大洪水では、水位が8.95mに達し、甚大な被害をもたらしました。エルツ川も、1993年の大洪水時には周辺の建物に深刻な被害を与えています。

歴史

先史時代

モースバッハ周辺地域では、古代の動物の足跡や骨の化石が多数発見されています。この地域は、テューリンゲンやマインフランケン地方と並び、化石の宝庫として知られています。市立博物館には、マンモスの化石をはじめとする豊富な出土品が展示されています。モースバッハ馬やモースバッハ・ライオンといった名称は、実際には別の場所で発見された化石に由来しますが、この地域の豊かな化石資源を物語るエピソードとして知られています。

ローマ時代から中世

ローマ時代には、モースバッハの近くにネッカー＝オーデンヴァルト＝リーメスが伸びており、ディーデスハイム地区ではローマ時代の農場跡が発見されています。モースバッハの歴史は、ベネディクト会の修道院を中心に始まりました。736年に聖ピルミニウスによって設立されたとされる修道院は、フランク王国時代にオーデンヴァルトの開拓を担った重要な拠点の一つでした。モースバッハの入植地は、9世紀に文献に初出しています。1241年には帝国自由都市の権利を得ましたが、1362年にプファルツ選帝侯領に編入されました。

プファルツ選帝侯領時代

1410年には、オットー1世がモースバッハを宮廷所在地とし、プファルツ＝モースバッハ領を統治しました。オットー1世の時代には、モースバッハの都市運営のために多くの借り入れが行われました。1499年にプファルツ＝モースバッハ家が断絶した後は、選帝侯領に編入されました。16世紀には、宗教改革の影響で混乱しましたが、18世紀までには繁栄を取り戻しました。三十年戦争では、モースバッハは直接的な戦火を免れたものの、略奪や飢饉に見舞われました。プファルツ継承戦争では、戦場にはならなかったものの、周辺地域への負担が増大し、復興が遅れました。1723年には、大規模な火災で多くの家屋が焼失しましたが、その後の選帝侯の政策により復興を遂げました。

19世紀以降

1806年、モースバッハはバーデン大公国に編入され、行政機関の所在地となりました。1862年には鉄道が開通し、経済的な発展を遂げました。20世紀初頭には、保養地としての発展を目指しましたが、実現には至りませんでした。第二次世界大戦中には、ユダヤ人迫害や強制収容所の設置など、悲惨な歴史も経験しました。戦後、モースバッハはアメリカ管理地域となり、多くの放逐民を受け入れ、人口が急増しました。1973年には、郡の再編によりネッカー＝オーデンヴァルト郡の郡庁所在地となり、1976年には大規模郡都市に昇格しました。

宗教

モースバッハは、宗教改革の影響を受け、プロテスタントが優勢な時期もありましたが、カトリックとの共存も認められました。市教会は、現在もカトリックの聖ユリアナ教会とプロテスタントのシュティフト教会に分かれており、それぞれの歴史と文化を物語っています。ユダヤ人コミュニティは、中世からの迫害を経験しながらも、近世には再建され、1938年のユダヤ人迫害事件で再び壊滅するまで存続しました。現在では、モスクを含む様々な宗教コミュニティが存在し、モースバッハの多様性を象徴しています。

文化と見所

建築

モースバッハの見所は、マルクト広場に集中しています。特に、1610年に建造された木組み建築のパルムシェ・ハウスは、南ドイツで最も美しい木組み建築の一つとして知られています。また、市庁舎やゴシック様式のシュティフト教会、カトリックの聖ユリアナ教会、モースバッハ城跡なども見所です。ネッカーエルツ地区には、中世の雰囲気を残すテンペルハウスがあります。Kiwwelschisserbrunnen（バケツ男の泉）は、中世の都市衛生に関する行政命令を記念したモースバッハの象徴的なモニュメントです。ロールバッハ地区には、1000年以上の歴史を持つロールバッハ城があります。また、ビスマルク塔や３つの水車小屋跡なども、モースバッハの歴史を物語る建築物として知られています。

公園

Landesgartenschau-Park（LGSパーク）は、1997年にバーデン＝ヴュルテンベルク州庭園博覧会の会場となった場所です。市立庭園を中心とし、ローレット・パークやエルツパークを含む広大な公園で、市民の憩いの場となっています。

劇場・博物館

バーデン・ランデスビューネでは、定期的に演劇が上演されています。市立博物館では、モースバッハの歴史や文化に関する資料が展示されています。旧病院や旧市街の建物を利用した博物館では、ファイアンス焼きやマヨルカ焼き、手工芸品、生活文化資料などが展示されており、地域の歴史を体感することができます。ネッカーエルツ強制収容所記念館では、ナチス・ドイツ時代の悲劇を伝えています。また、ネッカー＝オーデンヴァルト芸術協会では、定期的に展示会が開催されています。

スポーツ

モースバッハには、サッカー、体操、陸上競技など様々なスポーツクラブがあります。特に、Spielvereinigung Neckarelzは、北バーデン連盟リーグで活躍しています。また、モースバッハ・シティーレースなどの市民レースも開催され、地域住民の健康増進に貢献しています。

年中行事

モースバッハでは、5月の春祭り、夏のモースバッハの夏、国際ストリートパフォーマンス、プファルツ選帝侯の収穫祭など、一年を通して様々なイベントが開催されています。これらのイベントは、モースバッハの活気と魅力を高める重要な要素となっています。

経済と社会資本

交通

モースバッハは、鉄道やバスなどの公共交通機関が整備されています。モースバッハ＝ネッカーエルツ駅は、レギオナルエクスプレスやライン・ネッカーSバーンの停車駅であり、周辺都市へのアクセスが容易です。市内には、連邦道B27、B37、B292号線が通っていますが、アウトバーンのインターチェンジは近隣都市にあり、モースバッハからは少し離れています。

公共機関・メディア

モースバッハは、ネッカー＝オーデンヴァルト郡の郡庁所在地であり、地方裁判所、刑務所、税務署などの公共機関が集まっています。また、社会福祉施設であるヨハネス・アンシュタルテンの本部も置かれています。メディアとしては、地方紙のRhein-Neckar-Zeitungや南西ドイツ放送の支局があります。

教育

モースバッハには、モースバッハ・ベルーフアカデミー（モースバッハ産学協同教育大学）をはじめ、複数のギムナジウム、実業学校、養護学校などがあり、教育都市としても重要な役割を果たしています。

経済

モースバッハの経済は、中小企業と小売業が中心です。地域を越えて支配的な大企業は見られませんが、Gmeinder Getriebe- und Maschinenfabrik GmbHなどの製造業や、ハネウェル社などの大手企業の営業所があります。また、IT分野の企業も存在し、地域経済を支えています。観光業も、モースバッハの重要な産業の一つであり、美しい自然や歴史的な建築物を求めて多くの観光客が訪れます。

まとめ

モースバッハは、歴史、文化、自然が調和した魅力的な都市です。古代から現代までの歴史を物語る建造物や博物館、豊かな自然、そして活気あるイベントなど、多くの魅力を持っています。モースバッハへの訪問は、歴史と文化、そして自然を愛する人々にとって忘れられない経験となるでしょう。

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