モー包囲戦

モー包囲戦：百年戦争の激闘とヘンリー5世の最期

1421年10月から1422年5月にかけて、フランス北東部のモー市を舞台に、百年戦争における重要な戦闘であるモー包囲戦が繰り広げられました。この戦いは、イングランド王ヘンリー5世率いるイングランド軍と、フランス軍との間の激しい攻防戦であり、戦争の帰趨を左右する重要な出来事となりました。

戦争の背景：フランスの混乱とイングランドの野望

アジャンクールの戦いを皮切りに、イングランドはフランスへの侵攻を強めていました。ブルゴーニュ派とアルマニャック派というフランス国内の勢力抗争も、イングランドのフランス進出を容易なものにしました。ヘンリー5世は、ノルマンディーの征服後も、フランス国内での支配を拡大しようと野心的な計画を進めていました。しかし、1421年3月のボージェの戦いで、ヘンリー5世の弟クラレンス公が戦死するなど、イングランドの勢力拡大は容易ではありませんでした。

包囲戦の開始と激戦：粘るフランス軍と疲弊するイングランド軍

弟の死をきっかけに、ヘンリー5世は4000の兵を率いてフランスに再上陸、パリ周辺のフランス軍の拠点に対する攻撃を開始しました。その過程で、モー包囲戦は、パリ近郊の主要拠点であるモー市を攻略するという戦略目標から始まりました。1421年10月6日、モー市の包囲は開始されました。イングランド軍は、最新の攻城技術を用いた激しい攻撃を展開しましたが、モー市のフランス軍は頑強に抵抗しました。地下坑道掘削や爆破工作といった、当時としては最先端の攻城技術も投入されましたが、包囲戦は予想以上に長期化しました。長引く攻城戦は、イングランド軍に多大な犠牲をもたらし、多くの兵士だけでなく、貴族階級の者たちも戦死していきました。さらに、陣中では疫病が蔓延し、赤痢や天然痘が流行、多くの兵士が病死しました。ヘンリー5世自身も病に倒れましたが、落城までは陣を離れることはありませんでした。12月には、ヘンリー5世の妃キャサリン・オブ・ヴァロワが王子ヘンリー（後のヘンリー6世）を出産したという知らせが届き、ヘンリー5世にとって唯一の朗報となりました。1422年5月10日、ついにモー市は陥落し、フランス軍守備隊は降伏しました。しかし、ヘンリー5世は、すでに重度の赤痢に侵され、病状は悪化の一途を辿っていました。

ヘンリー5世の死と百年戦争の行方

勝利を収めたものの、ヘンリー5世は、包囲戦中に罹患した赤痢のため、同年8月31日に35歳で亡くなりました。モー包囲戦での勝利は、ヘンリー5世の死という大きな代償を伴ったものでした。ヘンリー5世の死は、百年戦争の戦況に大きな影響を与えました。彼の死後、フランスは再び混沌に陥り、イングランド王位を継いだヘンリー6世は幼少であったため、摂政のベッドフォード公ジョン・オブ・ランカスターが後見人として政治を担いました。しかし、フランスの抵抗は次第に強まり、ジャンヌ・ダルクの活躍も相まって、イングランドの優位は徐々に崩れていくことになります。モー包囲戦は、ヘンリー5世の壮大なフランス征服計画の終焉を告げる、悲劇的な勝利であったと言えるでしょう。

参考文献

Burne, A.H. (1991) [1956]. The Agincourt War. London: Greenhill Books. p. 81. ISBN 1853670871
Smith, Robert; Kelly DeVries (2005). The Artillery of the Dukes of Burgundy 1363 - 1477. Woodbridge, Suffolk: Boydell & Brewer. pp. 150–1. ISBN 1843831627

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