ヤクシマシャクナゲ

ヤクシマシャクナゲ

ヤクシマシャクナゲ（屋久島石楠花、学名: Rhododendron yakushimanum または Rhododendron yakushimanum var. yakushimanum）は、ツツジ科ツツジ属シャクナゲ亜属に分類される常緑低木です。屋久島の固有種であり、屋久島町の花として選定されています。

特徴

ヤクシマシャクナゲは、屋久島の山岳地帯で5月下旬から6月上旬にかけて開花します。花は直径約4cmで、鐘のような形をしており、先端が5つに分かれています。雄しべは10本あります。蕾の時は濃いピンク色ですが、開花するにつれて淡紅色から白色へと変化します。ただし、まれに蕾の時から白いものや、薄いオレンジがかったピンク色の花を咲かせる株もあります。

標高1600mから1700m付近の風衝地に自生する株は、葉が小さく、長さ7-14cm、幅2-3cm程度です。葉の裏側にはビロード状の綿毛が密生しており、樹高は0.5-1.5m程度と低く、成長も非常に遅いです。新芽が出たばかりの頃は、葉の表裏ともに白い綿毛に覆われていますが、やがて表面の毛は抜け落ち、光沢のある濃い緑色の葉になります。

一方、風衝帯よりも標高の低い樹林帯に自生するものは、樹高が2-3mとやや大きく成長し、葉も大きくなります。これらのうち、葉の毛が少ないものは、オオヤクシマシャクナゲ（ウスゲヤクシマシャクナゲ）として区別されています。

ヤクシマシャクナゲは、組織の凍結に対する耐性（耐凍度）も特徴的です。標高1000m付近に自生するオオヤクシマシャクナゲは、葉が-20℃、芽や靭皮組織が-25℃まで耐えられますが、太忠岳山頂（1497m）付近に自生するものは、葉、芽、靭皮組織ともに-70℃まで耐えることができます。

分布

ヤクシマシャクナゲは、屋久島の標高1000mから1500m付近の高山帯から、宮之浦岳（1936m）、永田岳（1886m）、黒味岳（1831m）などの奥岳山頂付近まで分布しています。その範囲は数千ヘクタールに及びます。また、屋久島のより低い樹林帯には、変種のオオヤクシマシャクナゲが生育しています。

ヤクスギランドを経て淀川登山口に通じる安房林道沿いでは、紀元杉（標高1240m）付近から見られるようになり、紀元杉にも着生しています。荒川登山口から縄文杉を経る登山道沿いでは、高塚小屋（標高1330m）付近から見られます。

品種

ヤクシマシャクナゲは、西日本に分布するツクシシャクナゲと近縁であるため、ツクシシャクナゲの変種または亜種とする考え方もあります。しかし、ヤクシマシャクナゲの花は5つに分かれるため、アズマ[[シャクナゲ]]の特徴にも共通しています。そのため、寒冷な時期に広く分布していた5裂の花を持つ種が屋久島に残存したと考える説もあり、アズマ[[シャクナゲ]]の変種とする見解もあります。

1934年には、イギリスのシャクナゲ園エクスバリー庭苑に移植され、その美しい姿が人気を博しました。その後、西洋シャクナゲの矮小性品種の親となり、多くの交雑品種が育成されています。

栽培

ヤクシマシャクナゲは成長が遅く、花を咲かせるまでに5-10年程度かかるため、接ぎ木で増やすことも多いです。しかし、種から育てる実生栽培も行われています。分枝性が良く、横に広がる性質があるため、自然に盆栽のような形になります。種を湿ったミズゴケに蒔き、発芽して本葉が2-3枚になったら、新しいミズゴケに植え替えます。

シャクナゲはpH5.0-5.5程度の弱酸性土壌を好むため、1年育てた幼苗は、ボラ土や赤玉土にピートモスを混ぜた土壌などに植え替えます。水はけの良い土を好みますが、乾燥には弱いため注意が必要です。肥料は、2-3月頃に油粕を株元に与えます。

群馬県嬬恋村・浅間高原のしゃくなげ園には、アズマ[[シャクナゲ]]などと共にヤクシマシャクナゲも植えられています。屋久島内では、宮之浦の総合自然公園、尾之間のいわさきホテル、栗生の石楠花の森公園などのシャクナゲ園に植栽されています。屋久島の平地に植えられたものは、山岳地帯のものよりもやや早く、4月下旬から5月上旬頃に開花します。

下位分類

オオヤクシマシャクナゲ (Rhododendron yakushimanum Nakai var. intermedium (Sugim.) T.Yamaz.)：やや標高の低い樹林帯に自生し、風衝地に自生する矮小種よりも樹高・葉ともに大きく、葉の裏側の毛が少ないのが特徴です。ただし、このオオヤクシマシャクナゲが基本種で、奥岳周辺に自生する矮小種は風衝地に適応した変種であるという見方もあります。

気孔数と毛基数を比較すると、杉林付近に生えるオオヤクシマシャクナゲの方がどちらも少ない傾向が見られます。両者を変種として扱う意見もありますが、気孔数と毛基数の相関は連続的に変化しているように見え、両者が密接な関係を保ちながら、環境の勾配に応じて変化しているとも考えられます。

山岳信仰とシャクナゲ

シャクナゲは、山岳信仰とも深い関係がありました。屋久島では、選ばれた青年が宮之浦岳や永田岳などの山に登り、一品宝珠大権現を祀った祠に米や酒などを供える「岳参り」が旧暦4月と旧暦8月に行われていました。奥岳でシャクナゲの蕾を採取して里へのお土産にする風習がありましたが、近年では自然保護の観点から衰退しています。

参考文献

梶原忠男・梶原悦子『だれも知らない屋久島 シャクナゲらんまん編』風景写真出版、2015年5月。
神崎真貴雄『世界自然遺産 屋久島の自然図鑑』メイツ出版、2015年1月。
川原勝征『屋久島 高地の植物―世界自然遺産の島』南方新社、2001年8月。
熊本営林局屋久島森林環境保全センター 編『屋久島の森林』林野弘済会、1993年。
太田五雄『屋久島の山岳:近代スポーツ登山65年の歴史と現在』南方新社、1993年。
辻井達一『続・日本の樹木』中央公論新社、2006年2月。

関連項目

屋久杉

外部リンク

* 南野拓也、高嶋敦史、吉田茂二郎、石井弘明 、ヤクスギに着生する木本植物群落の構造 植生学会誌 2015年 32巻 1号 p.57-63

もう一度検索