ヤン・クレンツ

ヤン・クレンツ（Jan Krenz）は、1926年7月14日にポーランドのヴウォツワヴェクで生まれ、2020年9月15日にその生涯を閉じた、同国を代表する指揮者および作曲家です。

音楽の道を志したクレンツは、ワルシャワ音楽院で専門的な教育を受けました。その才能は早くから認められ、1946年にはポズナニ・フィルハーモニー管弦楽団の指揮台に立ち、プロの指揮者としての第一歩を踏み出しました。彼はまた、1949年に結成された音楽家グループ「グループ49」の創設メンバーの一人としても知られています。

指揮者としてのキャリアにおいて、クレンツはポーランド内外の主要な音楽機関で重要なポストを務めました。特に、1953年から1967年にかけては、ポーランド放送交響楽団の首席指揮者として、オーケストラの水準向上に大きく貢献しました。その後はワルシャワ国立歌劇場の音楽監督に就任し、オペラの世界でもその手腕を発揮。国際的にも活躍の場を広げ、1979年から1982年にはドイツのボン市の音楽監督も務めました。

日本とも深い関わりを持ちました。ポーランド放送交響楽団を率いて1963年に初めて日本を訪れて以来、度々来日公演を行っています。日本の主要オーケストラである読売日本交響楽団や札幌交響楽団などを指揮し、日本の聴衆にも親しまれました。しかし、1973年に予定されていたドレスデン国立歌劇場管弦楽団との来日公演は、クレンツの急病により残念ながらキャンセルとなりました。この時、彼の代役を務めたのが指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットであり、これがブロムシュテットにとっての日本デビューとなりました。

クレンツは指揮活動と並行して、作曲家としても精力的に創作を続けました。その作品は多岐にわたり、室内楽、管弦楽曲、合唱曲など幅広いジャンルに及んでいます。初期の作品から晩年まで、彼の音楽語法は変化を見せながらも、常に独創性を追求しました。

主要作品として以下のようなものが挙げられます。

弦楽四重奏曲 第1番（1943年）
声楽とピアノのための三部作（1946年）
交響曲 第1番（1947-49年）
小オーケストラのための古典風セレナーデ（1950年）
ア・カペラ合唱のための二つの民謡（1950年）
フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットのための四重奏曲（1950年）
オーケストラのための交響的舞曲（1951年）
小オーケストラのための田園風セレナーデ（1951年）
弦楽オーケストラ、シロフォン、タムタム、ティンパニ、チェレスタのためのラプソディ（1952年）
ピアノと小オーケストラのためのコンチェルティーノ（1952年）
ソロ・クラリネットのためのムジカ（1958年）
24楽器のためのカプリッチョ（1961-62年）
合唱と鐘のための短いミサ曲（1982年）
オーケストラのための仮面（Masken）- 交響的三部作（1982-85年）
弦楽四重奏のための室内楽曲（弦楽四重奏曲 第3番）（1983年）
二つのソロ・ヴァイオリンのためのソナチネ（1986年）
オーケストラのための墓碑銘（Epitaphion）（1989-90年）
交響曲 第2番（ファンタジア風）（1989-92年）
管楽器のためのシンフォニエッタ（1994-95年）
チェロのための即興曲（1997年）
トリスタン追悼のために。弦楽四重奏のための後奏曲（1997年）
オーケストラのためのアリアと無窮動（2004年）
交響オーケストラのための序曲（2005年）
バリトン・ソロ、混声合唱、オーケストラのためのレクイエム（2007年）

また、彼は映画音楽の分野にも足跡を残しました。特に、アンジェイ・ワイダ監督の初期の代表作である「地下水道」の音楽では、十二音技法を巧みに用いたことで知られています。

作曲活動の他に、シマノフスキの「仮面劇」をオーケストラ用に編曲するなど、編曲家としても才能を発揮しました。

ヤン・クレンツは、多才な音楽家として、ポーランド国内外の音楽界に重要な貢献を残しました。

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