ヤーバッハ祭壇画

ヤーバッハ祭壇画：デューラーの失われた傑作

『ヤーバッハ祭壇画』は、ドイツ・ルネサンスの巨匠アルブレヒト・デューラーが1503年から1504年頃に制作した油彩の三連祭壇画です。この祭壇画は、もともと菩提樹の板に描かれていましたが、後に解体され、現在は一部が異なる美術館に所蔵されています。作品名は、17世紀末に所有者であったエバーハルト・ヤーバッハにちなんで名付けられました。

歴史と委嘱

この祭壇画は、ザクセン選帝侯フリードリヒ3世によって、ヴィッテンベルクの城の礼拝堂のために委嘱されたと考えられています。制作時期は、1503年にペストが収束した時期と重なると推測されています。祭壇画の構成については議論が続いており、かつてはウフィツィ美術館にある『東方三博士の礼拝』が中央パネルであったとする説がありましたが、現在では否定されています。また、中央パネルには彫像が配置されていたとする説や、左翼パネルに描かれたヨアキムと聖ヨセフから、中央パネルの主題が「聖アンナと聖母子」であったとする説も存在します。

作品の概要

現存する左右翼パネルは、閉じると一つの連続した情景を形成するように描かれています。左翼パネルには、旧約聖書の「ヨブ記」に登場するヨブが描かれています。ヨブは、サタンによって過酷な試練に遭い、財産を失い、皮膚病に苦しみながらも、神への信仰を保とうとしています。彼の衣服は散乱し、財産は燃え盛る炎の中で失われつつあります。ヨブの妻が、彼に汚水を浴びせる様子も描かれており、これは当時の風俗を反映したものです。後景には、小さな悪魔が逃げ去る姿が描かれています。

右翼パネルには、二人の音楽家が描かれています。太鼓を持つ人物は、デューラー自身の自画像である可能性が指摘されています。音楽家たちが描かれている意味は明確ではありませんが、ヨブを嘲笑するため、または慰めるために登場していると考えられています。もし後者であれば、聖書外典『ヨブ記』に記された「妻と楽師に慰められるヨブ」が主題である可能性も考えられます。

分散した祭壇画

現在、祭壇画の右翼外面パネルはケルンのヴァルラフ・リヒャルツ美術館、左翼外面パネルはフランクフルトのシュテーデル美術館に所蔵されています。また、ミュンヘンのアルテ・ピナコテークにある金地背景の『使徒たち』も、元の祭壇画の内面を飾っていたと考えられています。

祭壇画の解釈

『ヤーバッハ祭壇画』は、デューラーの卓越した画力と、聖書に基づいた深いテーマを表現した作品です。失われた中央パネルの主題や、音楽家の意味など、謎めいた部分も多く、今後の研究が待たれる作品です。この祭壇画は、デューラーの宗教的な関心と、人間存在の苦悩と信仰を深く考察した傑作として、美術史において重要な位置を占めています。

参考資料

Costantino Porcu, ed (2004). Dürer. Milan: Rizzoli

外部リンク

ヴァルラフ・リヒャルツ美術館の本作のサイト (英語)
シュテーデル美術館の本作のサイト (英語)
アルテ・ピナコテークの本作のサイト (英語)

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