ユゼフ・コフレル

ユゼフ・コフレル（Józef Koffler）は、20世紀前半に活躍したポーランドの作曲家です。特に、第二次世界大戦が勃発する以前のポーランドにおいて、十二音技法という当時最先端の作曲技法をいち早く自らの創作に取り入れたパイオニアとして、その名が知られています。

コフレルは1896年11月28日、ストルィーに生を受けました。この地は、彼が生まれた当時はオーストリア＝ハンガリー帝国の支配下にありましたが、現在はウクライナ領となっています。若年期をリヴィウで過ごした後、音楽の専門教育を受けるために文化の中心地ウィーンへと渡ります。1918年から1924年にかけての期間、ウィーンで著名な音楽家パウル・グレーナーから作曲を、そして指揮者としても名高かったフェリックス・ワインガルトナーから指導を受け、音楽家としての基盤を築きました。

学業を修めた後、1928年からは再びリヴィウに戻り、1941年まで当地で音楽教師として後進の指導にあたりました。このリヴィウでの活動期間には、後に国際的に評価される作曲家となるローマン・ハウベンシュトック＝ラマティが、コフレルのもとで学んでいます。

しかし、彼の活動は第二次世界大戦の勃発と、それに伴うナチス・ドイツの占領によって悲劇的な終わりを迎えます。ドイツ軍がリヴィウを占領すると、コフレルは妻と息子と共に捕らえられ、ナチスによってヴィエリツカのゲットーへと強制的に移送されました。その後、ヴィエリツカのゲットーが解体された後、彼ら家族はさらにクロスノへと移送されたとされています。そして、1944年の初め頃、ユゼフ・コフレルとその家族は、クロスノ近郊でナチスの特別出動隊（アインザッツグルッペン）によって殺害されたと推定されています。彼の正確な没年月日、没場所、そして死因については、残念ながら第二次世界大戦の混乱の中で明確な記録が失われており、不明なままです。コフレルは、多くのユダヤ系ポーランド人芸術家と同様に、ホロコーストの犠牲として命を落としました。

コフレルの音楽作品もまた、この悲劇によって多大な影響を受けました。彼自身がホロコーストで命を落としたことに加え、未出版であった多くの作品が戦乱の混乱の中で散逸し、失われてしまったのです。彼が作曲したとされる膨大な作品のうち、戦後になってようやく日の目を見たのは、わずか二作品にすぎません。現存し、現在でも入手可能な主要作品として知られているのは、《弦楽三重奏曲》作品10と、ソプラノといくつかの室内楽器のために書かれたカンタータ《愛》作品14です。これらはポーランドの楽譜出版社PWMから刊行されています。しかし、これらの現存する作品や、幸運にも失われずに録音が残された他のいくつかの楽曲は、CDなどで聴くことが可能であり、彼の音楽に触れる機会は現在でも存在します。

コフレルは、4曲の交響曲（作品11, 17, 21, 26）をはじめ、ピアノ協奏曲 作品13のような協奏曲、ヴァイオリンとピアノのための《奇想曲》作品18や《4つの詩曲》作品22、弦楽四重奏曲《ウクライナのスケッチ》作品27といった室内楽曲、《40のポーランド民謡》作品6や《12音の列による主題と15の変奏》作品9などの多様なピアノ曲、そして声楽曲や編曲に至るまで、幅広いジャンルにわたる作品を残しました。特に彼の作品リストには、十二音技法を用いた意欲的な作品が多数確認でき（例：《12音の列による主題と15の変奏》の弦楽合奏版 作品9aなど）、当時の新しい作曲技法に対する深い探求心と実践があったことが伺えます。一方で、多くの作品（劇付随音楽や初期の室内楽曲など）が失われた作品リストに含まれており、その全容を知ることは困難です。

ユゼフ・コフレルは、ポーランドにおける現代音楽の扉を開いた重要な作曲家でありながら、ナチスの蛮行によってその才能と多くの貴重な楽譜が失われた悲劇の人物です。現存するわずかな作品を通して、彼の音楽の革新性と芸術性の高さを知ることができ、その功績は現代においても音楽史の中で正当な再評価が進められています。

もう一度検索