ユムジャーギィン・ツェデンバル

ユムジャーギィン・ツェデンバル：モンゴルの激動期を率いた政治家

ユムジャーギィン・ツェデンバル（Yumjaagiin Tsedenbal、1916年9月17日 - 1991年4月20日）は、モンゴル人民共和国の政治家であり、元帥の称号を持つ人物です。20世紀のモンゴルにおいて、重要な役割を果たしました。

若き日の台頭と党の要職

1916年、ツェデンバルはモンゴル西部のウヴス県で生まれました。イルクーツク財務学院を卒業後、1940年、わずか24歳という若さでモンゴル人民革命党の書記長に就任しました。これは異例の抜擢であり、彼の政治的手腕と将来性を示すものでした。また、第一次インドシナ戦争ではベトナムを支援するなど、国際的な視野も持ち合わせていました。

チョイバルサン後のモンゴルを牽引

ホルローギーン・チョイバルサンの死後、1952年にツェデンバルは閣僚会議議長（首相）に就任しました。しかし1954年には党書記長職を退き、後任にダーシン・ダンバが選出されています。この時期、ソ連のスターリン批判に呼応して、チョイバルサン批判やチンギス・ハーン批判が行われ、反対派が民族偏向主義者として排除されるなど、国内政治は混乱しました。

しかし1958年、ツェデンバルは再び党書記長に選出され、モンゴルの政治を主導する立場に戻りました。1960年には憲法改正を行い、国民の権利を幅広く認める一方で、社会主義体制を支持する義務を国民に課しました。また、工業都市ダルハンを建設するなど、経済発展にも尽力しました。

ソ連との密接な関係と対中政策

1960年代に中ソ対立が表面化すると、ツェデンバルは一貫してソ連支持の姿勢を取りました。中国を批判する書簡を送ったり、「火薬を乾かしておく必要がある」と発言するなど、対中国強硬姿勢を示しました。この結果、モンゴルの国家存立は保障されたものの、ソ連への依存度が高まり、政治体制はソ連に癒着した状態が続きました。

日本との国交樹立と賠償金問題

ツェデンバルは、国際的な関係構築にも尽力しました。1972年には日本との国交を樹立し、1977年には経済協力協定を締結、ノモンハン事件の賠償金を得ることに成功しました。これにより、日本との関係を深め、経済発展のための基盤を築きました。

国家元首として

1974年、ツェデンバルは首相職をジャムビィン・バトムンフに譲り、国家元首である人民大会議幹部会議長に就任しました。1979年には、モンゴル人民共和国元帥の称号を授与され、スフバートル勲章やレーニン勲章など、数々の勲章を受章し、地位・名誉ともに最高潮に達しました。

晩年の苦悩と失脚

しかし1980年代に入ると、ツェデンバルは認知症による記憶喪失症に苦しみ始めました。会議中に同じことを何度も聞き返すなど、職務遂行に支障をきたすようになりました。党内では彼の独裁的な性格が再燃し、多くの幹部が解雇され、国内の不満が募りました。

中ソ関係の改善が進む中で、ソ連指導部の支持も得られなくなり、1983年にはソ連共産党政治局会議でツェデンバルの辞職が検討され始めました。1984年、ツェデンバルは健康状態の悪化を理由に「自発的辞任」を迫られ、書記長および政治局員を解任されました。その後、モスクワで療養中に死去しました。

逸話と著書

1978年に放送されたNHK特集「大草原のまつり ～モンゴルをゆく」では、ツェデンバルがナーダムの開祭宣言を行っている様子が記録されています。また、『社会主義モンゴル発展の歴史』という著書も残しています。

まとめ

ユムジャーギィン・ツェデンバルは、モンゴル人民共和国の政治家として、その生涯を通してモンゴルの発展に尽力しました。ソ連との緊密な関係を維持しながら、日本との国交樹立も実現し、国際的な視野も持ち合わせていました。晩年は病に苦しみながらも、モンゴル現代史において重要な足跡を残した人物と言えるでしょう。

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