ユージン・グーセンス

ユージン・エインズレー・グーセンス（1893年5月26日 - 1962年6月13日）は、20世紀前半に活躍したイギリスの指揮者、作曲家です。ベルギー出身の音楽家を父に持ち、音楽一家に生まれ育ちました。

若き日の音楽教育とキャリア

ロンドンで生まれたグーセンスは、幼少期から音楽に触れ、ブルッヘやリヴァプールで音楽教育を受けました。その後、ロンドンの王立音楽大学に進学し、チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードに師事しました。1912年から1915年まではクイーンズホール管弦楽団でヴァイオリン奏者として活動し、オーケストラの一員として経験を積みました。1916年には、早くもスタンフォードのオペラ「批評家」を指揮し、指揮者としての才能を開花させました。1921年には、ストラヴィンスキーの「春の祭典」のイギリス初演を指揮し、その手腕が高く評価されました。

アメリカでの活躍

1923年、グーセンスはアメリカに渡り、ロチェスター・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者に就任し、1931年まで務めました。その後、1931年から1946年まではシンシナティ交響楽団の指揮者を務め、同楽団の発展に大きく貢献しました。特に、第二次世界大戦中には、愛国的なファンファーレを作曲家たちに委嘱し、その中にはアーロン・コープランドの「市民のためのファンファーレ」も含まれています。これらのファンファーレは、1942年から1943年にかけてシンシナティ交響楽団によって演奏され、戦時下の国民を鼓舞しました。

オーストラリアでの活動とシドニー・オペラハウス

1947年、グーセンスはオーストラリアに渡り、シドニー交響楽団の指揮者として活動を開始しました。また、ニュー・サウスウェールズ州音楽学校で教鞭を執り、後進の指導にもあたりました。彼はシドニーにオペラ劇場が必要であることを強く訴え、その熱意が実を結び、後にシドニー・オペラハウスが建設されることになりました。シドニー・オペラハウスは、彼の音楽への情熱と先見の明を示す象徴的な存在となっています。

スキャンダルと晩年

1956年、グーセンスは空港の税関でポルノ写真の所持が発覚し、スキャンダルに見舞われました。この事件は、礼節を重んじる英国楽壇において大きな問題となり、彼は事実上指揮界から姿を消すことになりました。しかし、その後も音楽への情熱を失うことはなく、友人の指揮者サー・トーマス・ビーチャムからヘンデルのオラトリオ「メサイア」の編曲を依頼され、近代管弦楽用に編曲を手がけました。これは、引退を余儀なくされていたグーセンスへの配慮とも言われています。

作曲家としての側面と評価

グーセンスは、指揮者としてだけでなく、作曲家としても才能を発揮しました。2つの交響曲、2つの弦楽四重奏曲、2つのヴァイオリンソナタ、2つのオペラ、オラトリオ、弟のレオン・グーセンスのために書かれたオーボエ協奏曲、ピアノ組曲「万華鏡」（後に自身で管弦楽編曲）など、多様な作品を残しています。彼の作品は、洗練されたオーケストレーションと豊かな表現力が特徴であり、高く評価されています。

セントルイス・ポスト=ディスパッチ紙の音楽評論家トーマス・B・シャーマンは、グーセンスがセントルイス交響楽団を指揮した1930年のコンサートについて、「グーセンス氏は若さと経験とエネルギーと能力と性格の最良のコンビネーションを見せた」と評しました。この評価は、彼の指揮者としての才能と魅力を端的に表しています。

グーセンスは、その才能と情熱によって、20世紀の音楽界に大きな足跡を残しました。

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