ユーロブルン・ER188

ユーロブルンER188：1988年シーズンの挑戦

1988年のF1世界選手権。イタリアのレーシングチーム、ユーロブルンは、このシーズンに自チーム初となるF1マシン、ユーロブルンER188で参戦しました。ER188は、マリオ・トレンティーノを筆頭とするエンジニア陣によって設計され、コスワースDFZエンジンを搭載。チャンピオンシップポイント獲得とはなりませんでしたが、その開発背景やレースでのパフォーマンス、そしてチームを取り巻く状況は、F1の歴史において興味深い一ページを刻んでいます。

チームとマシンの誕生

ユーロブルンチームは、ユーロレーシングとブルン・モータースポーツの提携によって1987年に誕生しました。資金面はブルン・モータースポーツのオーナーであるウォルター・ブルンが支え、技術開発と実戦投入はユーロレーシングが担う体制でした。ユーロレーシングは、以前にはアルファロメオのF1参戦においてもマシン開発とチーム運営に携わっていた実績のあるチームでした。

ER188の開発は、イタリアのユーロレーシングで行われました。主任デザイナーを務めたのは、マリオ・トレンティーノ。彼は以前、アルファロメオ・184Tの設計にも関わっていた人物です。ER188は、そのアルファロメオ・184Tと類似したデザインであったと言われ、一部関係者からは「単なるアルファロメオの改修版」と評されるほどでした。特徴的なのは、1980年代前半のマシンを思わせる、背が高くかさばるモノコックです。このモノコックは、当時の最新技術とは程遠いものでした。

シャシーは、時代遅れと評されたものの、フロント・スラストロッド式、リア・タイロッド式サスペンションを採用。エンジンはハイニー・マーダー・レーシング・コンポーネンツが調整したコスワースDFZを搭載、トランスミッションはユーロブルンがヒューランド製6速ギアボックスをベースに開発したものを採用しました。

2人のドライバーと厳しい戦いの現実

1988年シーズン、ユーロブルンはステファノ・モデナとオスカー・ララウリという2人のドライバーを起用しました。モデナは1987年の国際F3000選手権チャンピオン、ララウリはブルン・モータースポーツでスポーツカーをドライブしていた経験豊富なドライバーでした。しかし、チームは資金不足に苦しんでおり、マシンの改良はほとんど行われませんでした。

ER188は、他のマシンに周回遅れにされることも多く、その遅い速度と扱いにくい挙動から、他のチームからは敬遠されるほどでした。ララウリは8回予選通過、完走2回。モデナは10回予選通過、完走5回という結果に終わりました。最高成績はモデナがハンガリーグランプリで記録した11位でした。

チームには、ドライバーのF1経験不足や、スタッフの未熟さも問題でした。多くの組織的なミスが、リタイアや予選落ちに繋がりました。モデナはモナコGPで重量検査を怠ったとして失格、メキシコGPではリアウイングの取り付け位置違反で失格、ベルギーGPでは予選用エンジンの装着を忘れるなど、様々なアクシデントに見舞われました。

ER188Bへの進化と終焉

1989年シーズンに向けて、ユーロブルンはER188を空力的に改良したER188Bを投入しました。エンジンはジャッドCVに変更、タイヤはピレリ製を使用しました。しかし、前年シーズンの苦戦と資金不足から、チームは1台体制での参戦を余儀なくされます。ドライバーにはグレガー・フォイテクが起用されましたが、ER188Bは開幕戦ブラジルGPで予備予選通過したものの予選落ち、それ以降は予備予選すら通過できないという結果に終わりました。ドイツGPからは、後継車ER189が投入され、ER188BはF1の歴史の中で最も失敗したマシンの1つとして記憶されることになりました。

ユーロブルンER188は、資金難の中、持ち前の技術力と情熱でF1に挑戦したチームの物語を象徴するマシンでした。その挑戦は結果として成功には結びつきませんでしたが、F1の歴史に名を刻む、重要な1ページを飾ったことは間違いありません。

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