ユーロ紙幣

ユーロ紙幣：デザイン、セキュリティ、歴史

ユーロ紙幣は、ユーロ圏におけるユーロ通貨の紙幣形式です。2002年の導入以来、欧州中央銀行によって発行され、現在では5ユーロから200ユーロまでの6種類の額面が流通しています。各紙幣には、欧州中央銀行総裁の署名が記されており、ユーロ圏共通のデザインが採用されている点が、デザインの異なるユーロ硬貨とは対照的です。

第一シリーズ（2002年～）

最初のユーロ紙幣シリーズは、純綿繊維製の紙幣で、独特の質感と高い耐久性を備えていました。当初は5ユーロから500ユーロまでの7種類の額面がありましたが、マネーロンダリングへの懸念などから、500ユーロ紙幣は2019年に発行が終了しました。しかし、既に発行済みの500ユーロ紙幣は引き続き有効です。

デザインは、ヨーロッパの建築様式をテーマとしています。各額面は、古典古代からアール・ヌーヴォーまで、異なる建築様式を象徴的に表現しています。表面には窓や門、裏面には橋が描かれており、いずれも架空の建造物で、特定の建造物を模倣したものではありません。しかし、デザイン選考の過程では、ヴェネツィアのリアルト橋など、実在の建造物が描かれた案もあったようです。

紙幣には欧州旗、欧州中央銀行の略称（複数言語）、ヨーロッパ地図、ユーロの表記（ラテン文字とギリシャ文字）、そして欧州中央銀行総裁の署名が共通して印刷されています。また、地図にはユーロ圏加盟国の海外領土も描かれています。署名は、発行時期によってウィム・ドイセンベルク、ジャン＝クロード・トリシェ、マリオ・ドラギと変わっています。

第二シリーズ（エウロパシリーズ、2013年～）

7～8年ごとに紙幣のデザインを見直すという方針に基づき、第二シリーズが開発されました。500ユーロ紙幣が廃止され、額面は6種類に減りました。

このシリーズでは、2002年以降に27か国に拡大した欧州連合加盟国がデザインに反映されました。新しい偽造防止技術が導入されましたが、基本的なデザインや色調は第一シリーズを踏襲しています。また、欧州中央銀行の略称表記には、キリル文字、ハンガリー語、マルタ語、ポーランド語表記が追加されました。「ユーロ」の表記も、キリル文字表記が加えられています。署名は、マリオ・ドラギ、そして2020年以降はクリスティーヌ・ラガルドとなっています。

第三シリーズ（2024年以降）

欧州中央銀行は、2024年までにユーロ紙幣のデザインを変更する計画を発表しています。テーマアドバイザリーグループによるテーマ案の選定、一般市民による投票、デザインコンペティションを経て、新しいデザインが決定されます。製造・発行時期は2026年頃と見込まれています。

視覚障害者への配慮

ユーロ紙幣は、視覚障害者への配慮も考慮されています。額面と寸法を大きくし、色調を金種ごとに交互に暖色と寒色にすることで、視覚的な識別を容易にしています。また、凹版印刷により触覚による識別も可能です。さらに、金属箔によるホログラムや、触知できる模様なども採用されています。

セキュリティ対策

ユーロ紙幣には、偽造防止のための様々なセキュリティ対策が施されています。その詳細は極秘とされていますが、ホログラム、光学的変化インク、チェックサム、ユーリオン、透かし（通常、電子、赤外線・紫外線）、レジストレーション、隆起印刷、バーコード、セキュリティ・スレッド、磁気インク、マイクロ印刷、マット加工など、少なくとも13種類以上の対策が確認されています。これらの技術により、真贋の判別が可能となっています。

偽造と記番号

ユーロ紙幣の流通開始以来、偽造は大きな問題となっています。特に高額紙幣の偽造が増加傾向にあります。

各紙幣には記番号が付けられており、その先頭の文字で発券国が分かります。続く13桁の数字はチェックサムとなっており、偽造防止に役立っています。記番号の先頭文字は、各国の公用語による国名表記のアルファベット順に割り当てられています。

印刷工程と高額・小額紙幣

ユーロ紙幣は複数の印刷所で印刷され、それぞれの印刷所には独自の印刷コードが割り当てられています。印刷コードは、印刷所の識別、印刷版の版数、印刷位置を示す情報を含んでいます。高額紙幣ほど、1枚のシートから印刷できる枚数は少なくなります。

200ユーロ紙幣と100ユーロ紙幣は、ユーロ紙幣全体の流通量・流通額において大きな割合を占めています。一方、1ユーロと2ユーロの紙幣については、導入の是非が議論されています。

0ユーロ紙幣

記念として、額面が0ユーロの紙幣も発行されています。マルチン・ルターやカール・マルクスの肖像が描かれた0ユーロ紙幣は、人気を集めています。

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