ヨゼフ・ピタウ
ヨゼフ・ピタウ（Joseph Pittau, 1928年10月20日 - 2014年12月26日）は、カトリックの大司教であり、教育者として知られています。イタリア出身であり、イタリア語名はジュゼッペ・ピッタウ（Giuseppe Pittau）ですが、日本では「ヨゼフ・ピタウ」として広く知られていました。
ピタウは、上智大学の理事長、学長として、大学の発展に大きく貢献しました。1981年にローマに呼び戻されるまでの間、その気さくな人柄で、学生や教職員から深い信頼を集めました。学内を歩きながら、学生にも気軽に日本語で声をかけ、親しまれていました。一方で、「大学は勉強するところ」という大学の原点を厳しく説き、教育者としての責任感も強く持ち合わせていました。
その後、ローマのグレゴリアン大学学長、バチカン教育省局長、大司教など、カトリック教会の重要な役職を歴任しました。イエズス会の総長、さらにはローマ教皇になるのではと噂されるほど、カトリック教会内で重要な人物でした。
1928年、イタリアのサルデーニャ島ヴィッラチードロで生まれました。1945年にイエズス会に入会し、1952年に来日。上智大学と同じくイエズス会が運営する栄光学園中学校で教鞭をとりました。当時の校長はグスタフ・フォスでした。1960年に上智大学大学院神学研究科を修了後、1963年にはハーバード大学大学院政治学研究科を修了し、日本の政治思想に関する論文で博士号を取得しました。指導教員はエドウィン・O・ライシャワーであり、当時教え始めたばかりのキッシンジャーやブレジンスキーからも指導を受けました。
その後、上智大学に招かれ、教授、理事長、学長を歴任。1968年には、大学闘争期に理事長として、機動隊導入という難しい決断を下し、大学の正常化に尽力しました。1981年にはローマへ戻り、教皇代理補佐に就任。その後、イエズス会総長顧問、教皇庁立グレゴリアン大学学長、教皇庁立科学アカデミー・社会科学アカデミー事務総長などを歴任し、1998年に大司教に叙階されました。75歳でバチカン教皇庁を辞した後、再来日し、カトリック大船教会協力司祭を務めました。2014年12月26日、東京の高齢聖職者施設ロヨラ・ハウスでその生涯を閉じました。
1928年：イタリア、サルデーニャ島ヴィッラチードロに生まれる
1952年：スペイン・バルセロナ大学にて哲学を修める
1954-1956年：栄光学園中学校教師
1959年：司祭叙階
1960年：上智大学にて神学修士号
1963年：ハーバード大学大学院修了、政治学博士号取得（博士論文はトッパン賞を受賞）
1966-1981年：上智大学法学部政治学教授
1968-1975年：学校法人上智学院理事長（歴代最年少）
1970年：イタリア政府からコメンダトーレ章
1975-1981年：上智大学学長（第7代）
1980-1981年：イエズス会日本管区長
1981年：教皇ヨハネ・パウロ2世の要請によりイエズス会本部へ
1984年：日本政府から勲二等旭日重光章を受章
1992-1998年：教皇庁立グレゴリアン大学学長
1993年：上智大学名誉教授の称号授与
1997-1998年：教皇庁立科学アカデミー・社会科学アカデミー会長
1998年：バチカン教育省局長（教育省次官）に就任、大司教に叙階
2004年：75歳でバチカン教皇庁を辞し、再来日
2004-2005年：カトリック大船教会協力司祭
2014年：日本にて帰天
栄光学園中学校で教師をしていた当時、校長であったグスタフ・フォスから、ゴミを拾わなかったことを叱責され、「学校の責任は全て背負う覚悟でいなさい」と言われたことを生涯忘れることはなかったと述べています。フォスの強い思いは栄光学園の発展を導き、ピタウの上智大学での姿勢に大きな影響を与えました。
また、日本の子供たちが親を敬い、教育を大切にする姿を見て日本への永住を決めたといいます。ハーバード大学で博士号を取得したピタウは、ハーバードの学生たちの使命感と責任感を評価する一方で、エリート意識には批判的な一面も持ち合わせていました。上智大学の学長時代には、休講や遅刻が当たり前の教師の姿勢に失望し、学生や教師に対して高い使命感、責任感、倫理観を求めていました。ハーバードでの経験が、上智大学を世界に貢献する大学にしたいという強い思いにつながったと考えられます。
上智大学理事長就任直後の1968年夏には、構内での盗難事件をきっかけに全学共闘会議（全共闘）が大学施設を占拠。学長辞任という難局に直面しました。ピタウは守屋美賀雄に後任を要請し、共に事態の解決に尽力。機動隊導入を決断し、大学の正常化を図りました。ピタウは、学生と機動隊員の死傷者を出さないように強く要望しました。この手法は「上智方式」と呼ばれ、全国の大学で参考にされました。後に佐々淳行はピタウを「学園紛争解決の功労者」と評価しています。
2006年には、「諸君!」9月号に掲載された細川珠生との対談記事で、靖国神社への参拝について、政教分離の原則を遵守しつつ、戦没者慰霊施設としての役割を認め、公人の参拝を容認する見解を示しました。この見解は、カトリック教会の他宗教への寛容な姿勢と一致するものです。
読売新聞の「時代の証言者」では、「日本は司祭としての礎を築いてくれた国」と語り、敗戦後の混乱期にあった日本の姿、特に、教育を重視する姿勢に深い感銘を受けたと述べています。
Pittau, Joseph. Political Thought in Early Meiji Japan 1868-1889、ハーバード大学出版局、1967年。
ヨゼフ・ピタウ『日本立憲国家の成立――明治初期政治思想に関する一考察』、内田文昭訳、時事通信社、1967年。
ヨゼフ・ピタウ『井上毅と近代日本の形成』、時事通信社、1967年。
ヨゼフ・ピタウ『ニッポンと日本人――見失われた心の再発見』、かんき出版、1978年。
ヨゼフ・ピタウ『日本の近代化』、富山県教育委員会、1978年。
ヨゼフ・ピタウ『カトリックにおける人間』、現代研究会、1979年。
ヨゼフ・ピタウ『大学の教育』、上智大学入試センター、1980年。
ヨゼフ・ピタウ『ニッポン人への熱い手紙――若者と教育をみつめて』、日本リクルートセンター、1982年。
ヨゼフ・ピタウ『時代の証言者――ラテン語: IN OMNIBUS AMARE ET INSERVIRE（すべてにおいて、愛し、仕える）』、ピタウ大司教の会、2010年。
ヨゼフ・ピタウ『愛ある生き方』、海竜社、2010年。
ヨゼフ・ピタウ 著、南條俊二 編『ヨゼフ・ピタウ大司教自伝 イタリアの島から日本へ、そして世界へ――A Life Journey』上智大学出版、2012年。
『聖地アッシジの対話 聖フランチェスコと明恵上人』（河合隼雄との共著)、藤原書店、2005年。
枝川葉子「ヨゼフ・ピタウ師の愛ある生き方」『ソフィアのダイバーシティ――先哲に学ぶ多様性との向き合い方』（PDF）学校法人上智学院ダイバーシティ推進室、2021年3月、13-15頁。
ヨゼフ・ピタウ大司教（元上智学院理事長・上智大学長・名誉教授）の訃報について - ウェイバックマシン（2014年12月31日アーカイブ分） - 上智学院による訃報
ピタウ先生を語る会 - 「ピタウ先生が語る会」から改称（上智大学ソフィア会Webサイト）【2022年ソフィア会退会】
ピタウ、私の人生を語る（和敬塾講演会ライブラリー）
人物
ピタウは、上智大学の理事長、学長として、大学の発展に大きく貢献しました。1981年にローマに呼び戻されるまでの間、その気さくな人柄で、学生や教職員から深い信頼を集めました。学内を歩きながら、学生にも気軽に日本語で声をかけ、親しまれていました。一方で、「大学は勉強するところ」という大学の原点を厳しく説き、教育者としての責任感も強く持ち合わせていました。
その後、ローマのグレゴリアン大学学長、バチカン教育省局長、大司教など、カトリック教会の重要な役職を歴任しました。イエズス会の総長、さらにはローマ教皇になるのではと噂されるほど、カトリック教会内で重要な人物でした。
略歴
1928年、イタリアのサルデーニャ島ヴィッラチードロで生まれました。1945年にイエズス会に入会し、1952年に来日。上智大学と同じくイエズス会が運営する栄光学園中学校で教鞭をとりました。当時の校長はグスタフ・フォスでした。1960年に上智大学大学院神学研究科を修了後、1963年にはハーバード大学大学院政治学研究科を修了し、日本の政治思想に関する論文で博士号を取得しました。指導教員はエドウィン・O・ライシャワーであり、当時教え始めたばかりのキッシンジャーやブレジンスキーからも指導を受けました。
その後、上智大学に招かれ、教授、理事長、学長を歴任。1968年には、大学闘争期に理事長として、機動隊導入という難しい決断を下し、大学の正常化に尽力しました。1981年にはローマへ戻り、教皇代理補佐に就任。その後、イエズス会総長顧問、教皇庁立グレゴリアン大学学長、教皇庁立科学アカデミー・社会科学アカデミー事務総長などを歴任し、1998年に大司教に叙階されました。75歳でバチカン教皇庁を辞した後、再来日し、カトリック大船教会協力司祭を務めました。2014年12月26日、東京の高齢聖職者施設ロヨラ・ハウスでその生涯を閉じました。
年譜
1928年：イタリア、サルデーニャ島ヴィッラチードロに生まれる
1952年：スペイン・バルセロナ大学にて哲学を修める
1954-1956年：栄光学園中学校教師
1959年：司祭叙階
1960年：上智大学にて神学修士号
1963年：ハーバード大学大学院修了、政治学博士号取得（博士論文はトッパン賞を受賞）
1966-1981年：上智大学法学部政治学教授
1968-1975年：学校法人上智学院理事長（歴代最年少）
1970年：イタリア政府からコメンダトーレ章
1975-1981年：上智大学学長（第7代）
1980-1981年：イエズス会日本管区長
1981年：教皇ヨハネ・パウロ2世の要請によりイエズス会本部へ
1984年：日本政府から勲二等旭日重光章を受章
1992-1998年：教皇庁立グレゴリアン大学学長
1993年：上智大学名誉教授の称号授与
1997-1998年：教皇庁立科学アカデミー・社会科学アカデミー会長
1998年：バチカン教育省局長（教育省次官）に就任、大司教に叙階
2004年：75歳でバチカン教皇庁を辞し、再来日
2004-2005年：カトリック大船教会協力司祭
2014年：日本にて帰天
エピソード
栄光学園中学校で教師をしていた当時、校長であったグスタフ・フォスから、ゴミを拾わなかったことを叱責され、「学校の責任は全て背負う覚悟でいなさい」と言われたことを生涯忘れることはなかったと述べています。フォスの強い思いは栄光学園の発展を導き、ピタウの上智大学での姿勢に大きな影響を与えました。
また、日本の子供たちが親を敬い、教育を大切にする姿を見て日本への永住を決めたといいます。ハーバード大学で博士号を取得したピタウは、ハーバードの学生たちの使命感と責任感を評価する一方で、エリート意識には批判的な一面も持ち合わせていました。上智大学の学長時代には、休講や遅刻が当たり前の教師の姿勢に失望し、学生や教師に対して高い使命感、責任感、倫理観を求めていました。ハーバードでの経験が、上智大学を世界に貢献する大学にしたいという強い思いにつながったと考えられます。
上智大学理事長就任直後の1968年夏には、構内での盗難事件をきっかけに全学共闘会議（全共闘）が大学施設を占拠。学長辞任という難局に直面しました。ピタウは守屋美賀雄に後任を要請し、共に事態の解決に尽力。機動隊導入を決断し、大学の正常化を図りました。ピタウは、学生と機動隊員の死傷者を出さないように強く要望しました。この手法は「上智方式」と呼ばれ、全国の大学で参考にされました。後に佐々淳行はピタウを「学園紛争解決の功労者」と評価しています。
2006年には、「諸君!」9月号に掲載された細川珠生との対談記事で、靖国神社への参拝について、政教分離の原則を遵守しつつ、戦没者慰霊施設としての役割を認め、公人の参拝を容認する見解を示しました。この見解は、カトリック教会の他宗教への寛容な姿勢と一致するものです。
読売新聞の「時代の証言者」では、「日本は司祭としての礎を築いてくれた国」と語り、敗戦後の混乱期にあった日本の姿、特に、教育を重視する姿勢に深い感銘を受けたと述べています。
著書
Pittau, Joseph. Political Thought in Early Meiji Japan 1868-1889、ハーバード大学出版局、1967年。
ヨゼフ・ピタウ『日本立憲国家の成立――明治初期政治思想に関する一考察』、内田文昭訳、時事通信社、1967年。
ヨゼフ・ピタウ『井上毅と近代日本の形成』、時事通信社、1967年。
ヨゼフ・ピタウ『ニッポンと日本人――見失われた心の再発見』、かんき出版、1978年。
ヨゼフ・ピタウ『日本の近代化』、富山県教育委員会、1978年。
ヨゼフ・ピタウ『カトリックにおける人間』、現代研究会、1979年。
ヨゼフ・ピタウ『大学の教育』、上智大学入試センター、1980年。
ヨゼフ・ピタウ『ニッポン人への熱い手紙――若者と教育をみつめて』、日本リクルートセンター、1982年。
ヨゼフ・ピタウ『時代の証言者――ラテン語: IN OMNIBUS AMARE ET INSERVIRE（すべてにおいて、愛し、仕える）』、ピタウ大司教の会、2010年。
ヨゼフ・ピタウ『愛ある生き方』、海竜社、2010年。
ヨゼフ・ピタウ 著、南條俊二 編『ヨゼフ・ピタウ大司教自伝 イタリアの島から日本へ、そして世界へ――A Life Journey』上智大学出版、2012年。
共著
『聖地アッシジの対話 聖フランチェスコと明恵上人』（河合隼雄との共著)、藤原書店、2005年。
参考文献
枝川葉子「ヨゼフ・ピタウ師の愛ある生き方」『ソフィアのダイバーシティ――先哲に学ぶ多様性との向き合い方』（PDF）学校法人上智学院ダイバーシティ推進室、2021年3月、13-15頁。
外部リンク
ヨゼフ・ピタウ大司教（元上智学院理事長・上智大学長・名誉教授）の訃報について - ウェイバックマシン（2014年12月31日アーカイブ分） - 上智学院による訃報
ピタウ先生を語る会 - 「ピタウ先生が語る会」から改称（上智大学ソフィア会Webサイト）【2022年ソフィア会退会】
ピタウ、私の人生を語る（和敬塾講演会ライブラリー）
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