ヨハニス・デ・レーケ

ヨハニス・デ・レーケ：日本の治水と砂防工学に貢献したオランダ人技師

ヨハニス・デ・レーケ（1842年-1913年）は、オランダ出身の土木技師であり、明治時代の日本において河川改修や砂防工事の先駆者として大きな功績を残しました。彼の貢献は日本の近代土木技術の発展に多大な影響を与え、「治水の恩人」や「近代砂防の祖」として称えられています。現在でも、彼が手がけた砂防ダムや防波堤は各地に残っており、その技術の高さは100年以上経った今も評価されています。

幼少期と土木工学への道

デ・レーケはオランダのコレインスプラートで、7人兄弟の3人目として生まれました。築堤職人を営む兼業農家の息子として育ち、幼い頃から自然と土木に関わる環境に身を置いていました。転機となったのは、オランダ内務省技官で水理学者でもあったヤコーブス・レブレットとの出会いでした。レブレットはデ・レーケに数学、力学、水理学など、土木工学に必要な幅広い知識を熱心に教え込みました。デ・レーケの勤勉さを見込んだレブレットは、彼を最初の弟子として可愛がったと言われています。

明治政府への招聘と日本の治水事業

1873年、明治政府による海外技術導入政策の一環として、デ・レーケは内務省土木局に招聘されました。G.A.エッセルらと共に来日した彼は、エッセルが設計を担当する一方で、施工や監理を主に担い、淀川や三国港の改修工事などに携わりました。その後、ファン・ドールンやエッセルの後任として、内務省の技術顧問・指導者として活躍することになります。

デ・レーケの功績は、単なる河川の改修にとどまりません。彼は、氾濫を繰り返す河川問題の根本的な解決策として、水源山地における砂防・治山工事の体系化にも取り組みました。また、全国の港湾建築計画にも携わっています。中でも、木曽川下流の三川分流計画には10年もの歳月を費やし、成功に導きました。この計画においては、当初の二川分流案から、片野萬右衛門という老人の進言に基づき三川分流案へと変更したという逸話も残されています。

彼は日本各地の現場を積極的に視察し、技術指導や助言を行いました。その業績から、1891年には内務省勅任官技術顧問に任命され、天皇から任命を受けた内務大臣の技術顧問・相談役という重要な立場に就きました。しかし、当時の慣例として、お雇い外国人はあくまでも裏方であり、工事の決定権や公式な表彰は日本側が担っていました。そのため、デ・レーケは関係した工事の竣工式に招待されたり、記念碑に名前を刻まれることはありませんでした。

後年の活躍と帰国

その後、日本の土木技術者の育成が進み、デ・レーケの役割は徐々に小さくなっていきました。しかし、彼は1903年に離日するまで、内務省勅任官技術顧問としての職務を全うしました。在日中に提出した報告書は57編にも及び、2度の受勲を受けています。帰国後も「日本の土木の基礎を築いた」と称えられ、勲二等瑞宝章を受賞、高額な退職金も支給されました。

離日後、デ・レーケはオランダに帰国した後、オランダ政府代表として中国の黄浦江改修事業の技師長を務めました。しかし、事業の難航や様々な問題に直面し、1911年に技師長職を辞任します。1913年、オランダで死去しました。

デ・レーケの遺産と日本の土木技術

デ・レーケの功績は、現在でも日本の各地に残る砂防ダムや防波堤に見ることができます。彼は粗朶沈床という技術も日本に伝えました。1998年には彼の孫が来日し、木曽川などを視察したことが話題になりました。2000年には日蘭交流400周年を記念したシンポジウムが開催され、デ・レーケとエッセルの親族が参加しました。

デ・レーケに関する逸話として、「日本の川の激しさに驚き、『これは川ではない。滝だ』と述べた」というものが知られていました。しかし、近年の研究で、この発言はデ・レーケではなく別のオランダ人技師によるものであり、早月川を指していたことが明らかになりました。

デ・レーケに関する書籍や舞台作品も制作されており、彼の業績は様々な形で後世に伝えられています。彼の生涯と功績は、日本の近代土木技術の発展に大きく貢献した人物の一例として、今もなお記憶されています。

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