ヨハネス・ブラスコヴィッツ

ヨハネス・アルブレヒト・ブラスコヴィッツ

ヨハネス・アルブレヒト・ブラスコヴィッツ（Johannes Albrecht Blaskowitz, 1883年7月10日 - 1948年2月5日）は、ドイツの陸軍軍人であり、最終階級は陸軍上級大将でした。彼は第二次世界大戦中に、ポーランドやフランスの占領司令官、軍集団司令官などを歴任しました。戦後、戦犯容疑で起訴される直前に自ら命を絶った人物としても知られています。

生い立ちと軍歴

1883年、東プロイセンのパータースヴァルデ（現在のロシア、カリーニングラード州ボリシャヤ・ポリャーナ）で、プロテスタント牧師の息子として生まれました。ブラスコヴィッツ家はスロベニアに起源を持ちます。幼少期に母を亡くし、父の再婚後、11歳まで東プロイセンで過ごしました。

10歳で陸軍幼年学校に入学し、その後ベルリンの士官学校に進みました。18歳でプロイセン陸軍に入隊し、第18歩兵連隊に配属されました。1902年に士官学校を卒業し少尉に任官後、ベルリンの教育課程に進み、助教を務めました。1908年から1911年には陸軍大学で学び、フランス語通訳の資格を取得。卒業後は中尉に昇進し、第9バーデン第170歩兵連隊に配属されました。

第一次世界大戦と戦間期

第一次世界大戦が勃発すると、ブラスコヴィッツは大尉として中隊長となり、ロートリンゲンやフランドル、チロル、セルビアの戦線に従軍しました。1916年には参謀将校となり、コーヴェリやリガの戦いに参加、後に西部戦線へ転属しました。その功績により、第二級・第一級鉄十字章、ホーエンツォレルン騎士勲章を受章しました。

戦後も陸軍に残り、第10軍団司令部や第5軍管区司令部で参謀を務めました。カップ一揆の際には、グスタフ・バウアー内閣を支援。一揆鎮圧後はルール地方での共産党蜂起鎮圧にも関与しました。1924年にはウルムの第3歩兵大隊に転属し、1926年には中佐に昇進。1927年にシュトゥットガルトに戻り、翌年には大佐に昇進しました。1930年にはバーデン地区司令官に任命され、第14歩兵連隊長を拝命。1932年には少将に昇進しました。

ナチス政権樹立後の1936年には中将に昇進、第2軍管区司令官に。1938年には第3軍集団司令官となり、オーストリア進駐やズデーテン地方、チェコスロバキア併合に関与しました。

第二次世界大戦

第二次世界大戦では、ポーランド侵攻作戦の立案に参画し、第8軍を指揮しました。迅速な侵攻を成功させ、ポーランド軍の反撃を撃退しましたが、前線視察を行ったヒトラーはブラスコヴィッツの指揮ぶりに強い不満を示しました。以後、ヒトラーはブラスコヴィッツを信用しなくなり、親衛隊員に対する軍法会議の死刑判決を覆すこともありました。1939年9月27日にはワルシャワの降伏を受理しました。戦後、上級大将に昇進し、騎士鉄十字章を受章、ポーランド占領司令官に任命されました。

ポーランド占領司令官として、親衛隊特務部隊や警察隊によるユダヤ人やポーランド人に対する不法行為に幾度も抗議し、ヒトラーによる「民族浄化命令」にも反対しました。これらの行動は、道義的・人道的な理由に加え、兵士たちの士気の低下や、独自の行動を取る親衛隊警察部隊への不満の増大といった現実的な懸念に基づくものでした。ブラスコヴィッツは、暴力のみでは占領地の安全や平和は保てないと考えていました。陸軍総司令官に、ウッチやワルシャワでのドイツ占領軍による暴行、略奪、殺人に関する覚書を提出しましたが、ヒトラーはこれを無視。1940年に司令官を更迭されました。ヒトラーは彼を「救世軍のような人物」と評し、元帥への昇進も見送られました。

1940年には、第9軍司令官として西方戦役の緒戦に従軍し、フランス北部占領司令官に任命されました。占領地では、住民の安全保障や公定交換レートの厳守などを命じました。1942年にはフランス南部への進駐作戦にも参加し、1943年にはドイツ銀十字章を受章しました。1944年、G軍集団司令官に就任。フランスのレジスタンス運動の鎮圧にあたりましたが、国際法の範囲内での行動を心がけていました。オーストラリアの歴史家によれば、ブラスコヴィッツはオラドゥール＝シュル＝グラヌの虐殺を批判したとされています。

連合軍のフランス上陸後、ブラスコヴィッツは軍集団をアルザスまで後退させましたが、無許可での後退を理由に更迭されました。その後、再びG軍集団司令官に任命されましたが、間もなく交代。オランダのH軍集団司令官となり、剣付騎士鉄十字章を受章しました。戦争末期には、連合軍との交渉を通じてオランダ市民への食糧供給を確保し、飢饉を防ぐことに尽力しました。

戦後

戦後、ブラスコヴィッツは捕虜として収容所を転々とし、ポーランド、アメリカ、チェコから起訴されました。ポーランドからは捕虜虐待・殺害罪で訴えられましたが、引き渡されることはありませんでした。ヴッパータールでの裁判では、イギリス兵捕虜殺害の責任を問われました。ニュルンベルク継続裁判では、「平和に対する罪」、戦争犯罪、人道に対する罪で起訴されました。無罪を主張しましたが、1948年2月5日の審理開始直前に、裁判所の階段から飛び降り自殺しました。ブラスコヴィッツの自殺は、無罪となる可能性もあったため、周囲に衝撃を与えました。

ブラスコヴィッツは、上官よりも部下を大切にする人物であり、第一次世界大戦時に彼の馬丁を務めたヨハネス・コプケが、残された未亡人と娘を引き取って養育したというエピソードが残っています。ブラスコヴィッツの墓は、コプケが住んでいたボンメルゼン（ゾルタウ近郊）にあります。

ブラスコヴィッツは、ナチス政権下でありながらも、軍人としての良心に従い、人道的な行動を貫いた人物として知られています。彼の行動は、ドイツ国防軍内にナチスの不法行為への強い忌避感を呼び起こし、後に多くの人々に影響を与えました。

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