ヨハネス1世ドゥーカス

ヨハネス1世ドゥーカス：テッサリアの独立を築いた野心家

ヨハネス1世ドゥーカス（生年不詳 - 1289年）は、テッサリア君主国の君主として、その短い生涯の中でテッサリアの独立を確立し、東ローマ帝国やエピロス専制公国と対峙した人物です。彼はミカエル2世アンゲロス・コムネノスの庶子として生まれ、正当な後継者争いとは異なる道を選びました。

生涯：独立と対立

1271年、父ミカエル2世の死後、嫡男ニケフォロス1世がエピロス専制公国の後を継ぎました。しかし、ヨハネスは庶子という立場から、これに不満を抱き、テッサリア地方のネオパトラス市で独立を宣言し、自ら専制公を名乗りました。後に、コンスタンティノープル宮廷からセバストクラトル（尊厳公）の称号を授与され、これを君主号として用い、エピロス専制公国は分裂することになります。

ヨハネスは非常に野心的な人物であり、コンスタンティノープルの皇帝やエピロス専制公とも競合関係にありました。1275年と1277年には、東ローマ帝国皇帝ミカエル8世パレオロゴスの侵攻を二度にわたり撃退し、独立君主としての力と権威を示しました。彼の時代から、テッサリアは独立した一地方としての歴史を歩み始めることになります。

しかし、1259年のペラゴニアの戦いにおけるエピロス側の敗北の一因が、ヨハネスとアカイア公ギヨーム2世・ド・ヴィルアルドゥアンとの対立にあったように、ヨハネス自身の野心とプライドが、エピロスとテッサリア両国の分裂、抗争、そして衰退を招き、結果的にニカイア帝国と復興東ローマ帝国を利することになったという側面も否定できません。

家族構成

ヨハネス1世ドゥーカスの妻は、タロナスの娘でしたが、個人名は不明です。彼らの間には、以下の子どもたちがいました。

ミカエル・コムネノス：1283年にコンスタンティノポリス宮廷に預けられ、ブルガリア皇帝イヴァン・アセン3世の娘と結婚しました。1307年にコンスタンティノポリスで没しています。
コンスタンティノス：テッサリア君主としてヨハネスの後を継ぎました。
テオドロス・アンゲロス：兄コンスタンティノスと共にテッサリアを共同統治しました。アルメニア王女との結婚が予定されていましたが、実現しませんでした。兄とほぼ同時期に死去したと考えられています。
ヘレネ：アテネ公ギヨーム・ド・ラ・ロシュの妻となりました。
娘（個人名不明）：有力者アンドロニコス・タルハニオティスの妻となりました。
ヘレネ：セルビア王ステファン・ウロシュ2世ミルティンの妻となりました。

ヨハネス1世ドゥーカスは、テッサリアの独立を確立した一方で、その野心と対立によって地域に混乱をもたらした複雑な人物でした。彼の生涯は、中世ギリシア世界の政治的駆け引きと、独立を求める地方勢力の葛藤を象徴していると言えるでしょう。

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