ヨランド・ダラゴン

ヨランド・ダラゴン：フランスを陰で支えた王妃

ヨランド・ダラゴン（1384年8月11日 - 1442年11月14日）は、百年戦争期のフランスにおいて、政治的手腕を発揮した女性です。アンジュー公兼プロヴァンス伯、そしてナポリ王であったルイ2世・ダンジューの妻として、フランス王シャルル7世の擁立と、その治世を支えました。彼女はアラゴン王フアン1世の娘として生まれ、その出自もまた、彼女の波乱に満ちた生涯を彩る要素の一つとなりました。

生涯

1400年、ヨランドはルイ2世と結婚します。ルイ2世はナポリの対立王でしたが、結婚の前年にはナポリを奪還されていました。ヨランドの父フアン1世の唯一の男子であった兄ハイメが早世したため、アラゴン王位は父の弟マルティン1世が継承しました。しかし、マルティン1世も後継者を定められないまま1410年に亡くなったため、ヨランドの長男ルイが王位継承候補の一人に挙がりましたが、王位を得ることはできませんでした。

フランス国内がブルゴーニュ派とアルマニャック派の内乱で混乱する中、ヨランドは1414年に王妃イザボー・ド・バヴィエールを訪ね、イザボーとシャルル6世の三男シャルル（後のシャルル7世）と自身の長女マリーを婚約させます。そして、シャルルをアンジェへ連れて行き、息子達と共に教育を施しました。1417年、シャルルは2人の兄の死によって王太子となりますが、1418年にブルゴーニュ派によってパリが陥落すると、ブールジュへ逃れ、ヨランドの庇護を受けました。ヨランドはヴァロワ＝アンジュー家をまとめ、エクス＝アン＝プロヴァンスを居城としてプロヴァンスの経営と外交に力を注ぎました。

1422年にはマリーとシャルル7世を結婚させ、次男ルネをロレーヌ公シャルル2世の娘イザベルと結婚させ、ロレーヌ公位を相続させています。

対イングランド戦略においては、ブルゴーニュ公フィリップ3世とシャルル7世の和解、そしてブルターニュとの連携が不可欠であると考え、1424年にブルターニュ公ジャン5世と休戦協定を締結。さらに、ブルゴーニュの歓心を買うため、アルテュール・ド・リッシュモンをフランス王国大元帥に任命させました。しかし、1426年にジャン5世がイングランドへ寝返り、シャルル7世の寵臣らがリッシュモンの足を引っ張るようになると、1427年にリッシュモンと組んでジアックを暗殺しました。

その後、協力者であったジョルジュ・ド・ラ・トレモイユがジアックの後釜に座り、リッシュモンを排除。イングランド戦略は後退しました。ラ・トレモイユは自らの支持基盤を強化するためにジャン・ド・クランとその孫ジル・ド・レを登用しますが、ヨランドにとっても2人の宮廷入りはメリットがありました。リッシュモンを失ったヨランドは、ブルターニュ交渉に尽力したジャンにアンジュー家の軍権を委ね、リッシュモンの代わりに軍事力を補おうとしました。

1429年、ジャンヌ・ダルクがシャルル7世の宮廷を訪れ、オルレアンの救援を願い出ます。ヨランドは、ジャンヌの出現を宮廷に一石を投じる機会と捉え、オルレアンへ向けての軍備を整えたとされています。オルレアン包囲戦とパテーの戦いでフランス軍が勝利すると、主戦派が勢いを増しましたが、ラ・トレモイユの妨害によって戦線は膠着。1430年には、ヨランド自身がラ・トレモイユの命令を受けたジルに誘拐されるという事件も起こりました。

1431年、ヨランドは再びジャン5世との交渉を行い、フランス側へ引き戻します。そして翌1432年、リッシュモンを宮廷に復帰させ、ラ・トレモイユの権力を失墜させました。1433年には、リッシュモンや他の貴族達と結託してラ・トレモイユを誘拐、宮廷から追放し、主導権を確立。三男シャルルがシャルル7世の側近に引き立てられ、以後は宮廷の指導者となったリッシュモンがブルゴーニュと同盟を結び、イングランドへの反撃を開始しました。ヨランドは領土奪還が進んでいくのを見届け、1442年に58歳で亡くなりました。

幼少期の孫娘マルグリット・ダンジュー（後のイングランド王妃マーガレット・オブ・アンジュー）を養育したことも知られています。マルグリットは、イングランドとフランスの休戦条件としてイングランドへ渡り、ヘンリー6世と結婚。後に薔薇戦争で重要な役割を果たすことになります。

ヨランド・ダラゴンは、激動の時代において、フランスの命運を左右する重要な役割を果たしました。その政治的手腕と決断力は、フランス史に深く刻まれています。

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