ルクレツィア・ボルジア

ルクレツィア・ボルジア：美貌と陰謀に彩られた生涯

ルクレツィア・ボルジア（1480年4月18日 - 1519年6月24日）は、ルネサンス期を代表する貴族女性の一人であり、ボルジア家の出身です。父は後のローマ教皇アレクサンデル6世、兄にはチェーザレ・ボルジアがいるという、権力と陰謀が渦巻く環境で育ちました。彼女の生涯は、その美貌と複雑な人間関係、そして政治的な策略に翻弄された波乱に満ちたものでした。

出自と概要

ルクレツィアは、ロドリーゴ・ボルジア（後のアレクサンデル6世）と愛人ヴァノッツァ・デイ・カタネイの娘として生まれました。ボルジア家は、ニッコロ・マキャヴェッリが『君主論』で言及したように、冷酷な統治者の一族として知られています。父アレクサンデル6世は政治腐敗と不品行で知られるローマ教皇であり、その影響下でルクレツィアは「ファム・ファタール」として、数々の美術作品、小説、映画の題材となりました。しかし、彼女の生涯は多くの謎に包まれており、彼女自身が政治的陰謀にどこまで関与していたかは不明です。

生涯

幼少期と容姿

1480年、ローマ近郊のスビアーコで生まれたルクレツィアは、幼い頃からその美貌で周囲を魅了しました。膝まで届く豊かな金髪、ハシバミ色の瞳、均整の取れた容姿は「天女」と称えられ、当時のイタリアで非常に高く評価されていました。

2008年には、メルボルンのヴィクトリア国立美術館が所蔵する『少女の肖像』がドッソ・ドッシの真作であり、ルクレツィアを描いたものである可能性を発表しました。これが事実であれば、現存する唯一のルクレツィアの肖像画となるかもしれません。

結婚と離婚

ルクレツィアは、父と兄の政治的野心のために、数々の結婚を経験しました。

ジョヴァンニ・スフォルツァとの結婚: 1493年、ミラノのスフォルツァ家の一員であるジョヴァンニ・スフォルツァと結婚しましたが、ボルジア家とスフォルツァ家の関係が悪化し、結婚は解消されました。ジョヴァンニは離婚を拒否し、近親相姦の疑いがあると主張しましたが、最終的にはボルジア家の圧力によって結婚の無効を認めることになりました。

ペドロ・カルデロンとの関係: ジョヴァンニとの離婚騒動の最中、ルクレツィアはアレクサンデル6世の侍従ペドロ・カルデロンと関係を持っていたと噂されました。カルデロンは後に暗殺され、ルクレツィアの関与も疑われましたが、真相は不明です。また、ルクレツィアが密かに子供を出産したという噂もありましたが、これも確証はありません。

アルフォンソ・ダラゴーナとの結婚: 1498年、ナポリ王の庶子アルフォンソ・ダラゴーナと再婚しましたが、アルフォンソは1500年に暗殺され、この暗殺には兄チェーザレが関与しているとも言われています。ルクレツィアとアルフォンソの間には息子ロドリーゴが生まれていますが、夭折しました。

アルフォンソ1世・デステとの結婚: 1502年、フェラーラ公アルフォンソ1世・デステと結婚し、彼女は多くの子供を産み、公爵夫人として尊敬されるようになりました。アレクサンデル6世の死後、ボルジア家は没落しましたが、ルクレツィアへの評価は変わりませんでした。

結婚後の生活

アルフォンソ1世との結婚後、ルクレツィアはフェラーラ公国の公爵夫人として安定した生活を送るようになりました。しかし、彼女の結婚生活は決して平穏なものではなく、義兄のマントヴァ侯フランチェスコ2世・ゴンザーガとの不倫関係が発覚しています。また、学者ピエトロ・ベンボとの関係も噂され、多くのロマンティックな逸話が残されています。

1519年、ルクレツィアは娘を出産後に産褥熱で亡くなり、その波乱の生涯を終えました。

子供たち

ルクレツィアは生涯で7人または8人の子供を産んだとされています。

ジョヴァンニ・ボルジア: 父はチェーザレかアレクサンデル6世とされていますが、ルクレツィアとペドロ・カルデロンの子だという説もあります。確証は無く、「ローマの子供」とも呼ばれています。
ロドリーゴ・ダラゴーナ: アルフォンソ・ダラゴーナとの間に生まれた息子。
エルコレ2世・デステ: 後のフェラーラ公。
イッポーリト2世・デステ: 後のミラノ大司教、枢機卿。
アレッサンドロ・デステ: 夭折。
エレオノーラ・デステ: 尼僧。
フランチェスコ・デステ: 後のマッサロンバルダ侯爵。
イザベラ・マリア・デステ: 死産。

その他にも、早世した子供や流産の経験があったとされています。ルクレツィアの子孫は、現在のヨーロッパ王家の多くと血縁関係があると言われています。

ルクレツィアを巡る噂

ルクレツィアは、贅沢な生活を好み、数々の陰謀に関わったと噂されています。毒を仕込める指輪を使っていた、父や兄と近親相姦の関係にあった、など様々な疑惑が残されていますが、真偽は定かではありません。

ルクレツィアを題材にした作品

ルクレツィアの生涯は、多くの小説、戯曲、映画、テレビドラマの題材となってきました。ヴィクトル・ユーゴーの戯曲『ルクレツィア・ボルジア』や、それを基にしたドニゼッティのオペラ、そして多くの歴史小説や映画、ドラマが彼女の波乱に満ちた人生を描いています。近年ではゲームやアニメにも登場し、様々な形で彼女の物語が語り継がれています。

まとめ

ルクレツィア・ボルジアは、ルネサンス期を代表する女性の一人です。彼女の美貌、複雑な人間関係、そして政治的な策略に翻弄された生涯は、今もなお多くの人々を魅了し、様々な物語を紡ぎ続けています。彼女の真の姿は歴史の中に埋もれていますが、その伝説はこれからも語り継がれていくでしょう。

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