ラウンド・ミッドナイト (曲)

ラウンド・ミッドナイト

ジャズの巨人、セロニアス・モンクによって生み出された「ラウンド・ミッドナイト」は、ジャズ史において最も重要かつ広く知られたスタンダード・ナンバーの一つです。独特のハーモニーとメロディを持つこの楽曲は、多くのジャズ・ミュージシャンに影響を与え、数え切れないほどの録音が行われてきました。

この曲の原型がいつ誕生したのかについては諸説あります。モンク自身が作曲を手がけたのは、1940年から1941年頃と考えられていますが、モンクの研究者であるハリー・コロンビーは、さらに遡ることモンクが19歳だった1936年に、「グランド・フィナーレ」という別のタイトルで最初のアイデアが書き留められていた可能性を示唆しています。いずれにせよ、その憂鬱で美しい旋律の断片は、モンクの心の中に早い段階から存在していたようです。

楽曲が広く知られるようになったのは、1944年にクーティ・ウィリアムス楽団によって録音・発表されたのがきっかけです。この際、トランペット奏者のクーティ・ウィリアムスと、後に歌詞をつけたソングライターのバーニー・ハニゲンが共作者としてクレジットされました。その後、ディジー・ガレスピー、アート・ペッパー、マイルス・デイヴィスといった名だたるジャズ・ミュージシャンたちがこの曲を取り上げ、それぞれ独自のアプローチで楽曲を昇華させ、その地位を確立していきました。

楽曲のタイトルについては、いくつかの表記が見られます。一般的に最も普及しているのは、モンク自身が後期の録音で主に用いた「'Round Midnight（ラウンド・ミッドナイト）」ですが、初期には「'Round About Midnight（ラウンド・アバウト・ミッドナイト）」というタイトルも使われました。また、アポストロフィーを省略したり、「About」を短縮形の「'Bout」と表記したりすることもあり、多様な形で言及されています。

作曲者であるモンク自身も、生涯にわたりこの曲を繰り返し録音しました。初録音は1947年に行われ、その後のアルバム『ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.1』（1951年発表）に収録されました。この初期の録音ではタイトルが「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」と記載されていましたが、1957年のアルバム『セロニアス・ヒムセルフ』以降は、「ラウンド・ミッドナイト」という表記が定着しました。他にも、『マリガン・ミーツ・モンク』、『ミステリオーソ』、『アット・ザ・ブラックホーク』、『モンクス・ブルース』など、彼の代表的なアルバムでその演奏を聴くことができます。

「ラウンド・ミッドナイト」は、ジャズ・ミュージシャンが作曲した楽曲の中でも、特に数多く録音されてきたスタンダードとして知られています。音楽データベースのオールミュージックによれば、この曲が収録されたアルバムは1000枚を超えると言われており、その影響力の大きさを物語っています。前述のクーティ・ウィリアムス楽団は、モンク自身の初録音に先駆けて1944年にこの曲を録音しており、楽曲の普及に貢献しました。

この曲を語る上で欠かせないのが、トランペット奏者のマイルス・デイヴィスの存在です。マイルスは、彼の代表作の一つであるコロムビア・レコードからのアルバム『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』（1957年）のタイトルにこの曲名を使用し、アルバムの冒頭に収録しました。彼のこの演奏は、ディジー・ガレスピーによるバージョンを下敷きにしつつ、独自の解釈を加えており、楽曲の新たな魅力を引き出しています。マイルスがコロムビアと契約するきっかけの一つとなったのが、1955年のニューポート・ジャズ・フェスティバルでのモンクとの共演だったことからも、この曲が彼のキャリアにおいていかに重要であったかが伺えます。マイルスはこれ以前にも、プレスティッジ・レコードのために1953年（アルバム『コレクターズ・アイテムズ』収録）と1956年（アルバム『マイルス・デイヴィス・アンド・ザ・モダン・ジャズ・ジャイアンツ』収録）に、この曲をスタジオ録音しています。

ジャズの世界以外でも、「ラウンド・ミッドナイト」は様々な場面で使用されています。例えば、1964年に放送を開始した海賊放送局、ラジオ・キャロラインでは、ジミー・マクグリフによる演奏が初期の放送終了テーマ曲として使われていました。また、2002年にはイタリアのピアニスト、エマヌエーレ・アルチウリが多数の現代作曲家にこの曲の変奏曲の作曲を委嘱し、ロベルト・アンドレオーニ、ミルトン・バビット、ジョージ・クラム、フレデリック・ジェフスキーといった著名な作曲家たちが新たな解釈を生み出しました。

映画の世界でもこの曲は印象的に用いられています。1971年の映画『地球最後の男オメガマン』では、ロン・グレイナーがクーティ・ウィリアムス版を基にしたテンポの遅いアレンジを施し、物語の重要なシーンで効果的に使用されました。そして1986年には、パリを舞台にアメリカ人ジャズ・ミュージシャンの孤独を描いた同名映画『ラウンド・ミッドナイト』のタイトル曲となりました。この映画のサウンドトラック・アルバム（ハービー・ハンコック監修）は、多くのジャズ・スタンダードと共にこの曲をフィーチャーしており、特に冒頭に収録されたバージョンでは、ハービー・ハンコック（ピアノ）、ロン・カーター（ベース）、トニー・ウィリアムス（ドラム）という鉄壁のリズム隊をバックに、ボビー・マクファーリンがサックスの音色を模した見事なスキャットを披露しています。

「ラウンド・ミッドナイト」は、セロニアス・モンクの創造性の核心を示す楽曲であり、その深い哀愁と美しさ、そして多くのアーティストによる多様な解釈を通じて、今なお世界中の聴衆を魅了し続けています。ジャズの奥深さを知る上で、決して避けて通ることのできない一曲と言えるでしょう。

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