ラシードゥッディーン

ラシードゥッディーン：イルハン朝を支えた宰相、そして歴史家

ラシードゥッディーン・ファドゥルッラーフ・アブル＝ハイル・ハマダーニー（1249年 - 1318年）は、イルハン朝後期の政治家であり、歴史家です。ガザン・ハンとオルジェイトゥ・ハンの下で宰相を務め、イルハン朝の政治・経済に大きく貢献しました。特に、ペルシア語による世界史『集史』の編纂責任者として知られています。

生涯

ラシードゥッディーンは、イラン中西部ハマダーンのユダヤ教徒の家系に生まれました。医師として各地を遊学した後、イルハン朝の宮廷に仕え、アバカ・ハンの典医となりました。その後、アルグン・ハン、マフムード・ガザン・ハンの下でも仕え、1297年にガザン・ハンが宰相に任命しました。ガザン・ハンは強力な改革政策を推進しており、ラシードゥッディーンはその補佐として、財政再建や行政改革に尽力しました。

ガザン・ハンの死後も、オルジェイトゥ・ハンの下で引き続き宰相を務め、国政を掌握しました。しかし、政敵との対立が続き、アブー・サイード・ハンが即位して間もなく、オルジェイトゥ・ハンの病没時の診断を誤診と咎められ、1318年に処刑されました。

『集史』編纂

ラシードゥッディーンの最大の功績は、ガザン・ハンの命によって編纂された歴史書『集史』です。1301年にモンゴル史の編纂を命じられ、ガザン・ハンの死後、オルジェイトゥ・ハンの時代に『幸福なるガザンの歴史』として献呈されました。その後、オルジェイトゥ・ハンの命により、モンゴル史を第1巻とし、古代、アラブ、中国、インド、ヨーロッパなどの世界史を第2巻として集成した増補改訂版が編纂され、1314年に完成しました。

『集史』は、モンゴル帝国の歴史だけでなく、当時の世界の様々な地域の歴史や文化を記録した貴重な資料です。ガザン・ハンは、イルハン朝領内のモンゴル王族とモンゴル諸部族の系譜の再認識と、自政権の正統性の主張を志向しており、そのために『集史』の編纂を命じました。ラシードゥッディーンは、『集史』の編纂にあたり、ガザン・ハン自身からの口述や、大元朝からの使者、モンゴルの古老、インドの仏教僧など、様々な情報源から情報を収集しました。また、チンギス・カンの歴史書「アルタン・デプテル」の閲覧も許可され、編集に用いました。

その他の著作と活動

ラシードゥッディーンは、『集史』の編纂の傍ら、中国医学書を研究し、『タンスーク・ナーマ』を著しました。また、『農桑輯要』にもとづいて農書なども著しています。さらに、自身の出自に対する中傷に対抗するため、神学書を著し、高位ウラマーたちから認可を取り付けました。

また、ラシードゥッディーンは、自らの名を冠した「ラシード区」を建設し、その維持と運営のために大規模なワクフ財産の寄進を行いました。ラシード区では、『集史』や『タンスーク・ナーマ』などの著作を『ラシード著作集』としてまとめ、写本を製作し、モンゴル帝国各地へ送付しました。特に『集史』はアラビア語版も作成され、マムルーク朝など非ペルシア語圏でも広く読まれることとなりました。

ラシードゥッディーンは、政治家として、歴史家として、そして文化人として、イルハン朝に多大な貢献をしました。彼の業績は、今もなお高く評価されています。

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