ラトビアの歴史

ラトビアは、バルト三国の中心に位置し、その歴史は数千年に及びます。古代から中世、近世、そして現代に至るまで、様々な民族や文化の影響を受けながら、独自の発展を遂げてきました。

前史

紀元前2000年頃、インド・ヨーロッパ語族のレット人（バルト語族）が現在のラトビアの地に移住を始めました。紀元前1世紀頃には、ウラル語族のリヴォニア人が北シベリアからリガ湾周辺に移住し、定住しました。この地は長らくリヴォニアと呼ばれました。

3世紀初頭、バルト地域やフィンランドはゴート族の支配下にありましたが、4世紀にはフン族の侵入によりゴート王国は滅亡します。さらにスラヴ人の東方からの侵入によって、ラトヴィア人とリトアニア人はバルト地域に移動せざるを得なくなりました。

8世紀末以降、スウェーデンやゴットランド島からのヴァイキングがバルト海沿岸に現れ、交易や略奪を行いました。彼らはダウガヴァ川を経由して黒海へと向かう通商路を形成しました。この頃には、スカンディナヴィア系の人々による交易のための遠征が、ヴァイキング時代以前から行われていたと考えられています。

バルトの人々は、西バルト語を話す西バルト人と、東バルト語を話す東バルト人に分かれます。ラトビアの国名の由来となったラトガレ地域には、東バルト人の一派であるラトガルィ族が住んでいました。

ドイツ騎士団による植民地支配

13世紀、リヴォニア帯剣騎士団およびドイツ騎士団による東方植民によって、この地域はキリスト教化が進められ、テッラ・マリアナが創設されました。現在の首都リガもこの時期に建設されました。騎士団とともにやってきたドイツ人は、バルト・ドイツ人としてラトビアに残り、実質的な支配を行いました。リヴォニア人は激減し、ラトビア人が主要民族となりました。16世紀には、マルティン・ルターの宗教改革がラトビアにも影響を与えました。

16世紀、バルト海の覇権をめぐり、リトアニア、ポーランド、スウェーデン・バルト帝国の支配を受ける中で、ラトビアは北部リヴォニアと南部クールラントに分裂し、それぞれ異なる勢力の影響下に置かれました。

ポーランド・リトアニア共和国時代

1557年、リヴォニア連盟とポーランド・リトアニア連合は安全保障条約を締結しました。ロシア・ツァーリ国のイヴァン雷帝はこれを敵対行為とみなし、リヴォニア戦争が勃発しました。20年に及ぶこの戦争で、リヴォニア連盟とポーランド・リトアニア連合は侵略者を撃退しました。1561年、リヴォニア帯剣騎士団は解散し、リヴォニア公国となり、ポーランド・リトアニア連合に加盟しました。リヴォニア帯剣騎士団の最後の総長は、クールラント・ゼムガレン公国の公爵となりました。

リヴォニア戦争はバルト海の覇権争いと深く関わっており、イヴァン4世の死後、スウェーデン王国とポーランド・リトアニア共和国の間で覇権争いが激化しました。リヴォニアは「権力の真空地帯」となり、両国の戦場となりました。共和国はスウェーデンとの戦争でリヴォニアの大部分を奪われましたが、ラトガレ地域は共和国の勢力下に残りました。1621年にインフランティ県となり、1629年の休戦協定により、インフランティ県とスウェーデン領リヴォニアは分割されました。インフランティ県は共和国の直接統治下となり、カトリック化が進められました。この状態は18世紀まで続きましたが、1772年の第一次ポーランド分割によってロシア帝国に編入されました。

スウェーデン領リヴォニア時代

スウェーデンは、リヴォニア戦争中にリヴォニアに進出しましたが、その後、共和国との関係が悪化し、1605年にリヴォニアに侵攻しました。この戦争で、スウェーデン軍は共和国軍に大敗を喫しましたが、グスタフ2世の改革によって軍事力を強化しました。1621年にはリガを攻略し、リヴォニアの大部分を征服しました。1629年のアルトマルク休戦協定で、リヴォニアは事実上分割されました。

スウェーデン領リヴォニアとなった地域は、スウェーデンの統治下に置かれ、貴族は地域議会の権限を獲得し、プロテスタント化が進められました。リガはバルト海東岸の重要な港湾都市として発展しました。しかし、エストニア人やラトビア人は農奴の地位に置かれました。1680年、カール11世は絶対王政によってリヴォニアを直接統治下に置きましたが、バルト・ドイツ人の反発を受けました。

1700年、大北方戦争が勃発し、スウェーデンはロシアに敗れました。1721年のニスタット条約によって、スウェーデンのバルト海支配は終わり、リヴォニアはロシア帝国の一部となりました。

ロシア帝国の支配

18世紀、ラトビアはロシア帝国の支配下に入りました。旧リヴォニアはリフリャント県、旧ラトガレはヴィチェプスク県となりました。19世紀には農奴解放が行われ、資本主義経済と市民社会が形成されました。ラトビア人の知識人や民族主義者が台頭し、バルト・ドイツ人による啓蒙運動も行われました。しかし、バルト・ドイツ人は依然として権力を握っていました。19世紀後半、アレクサンドル3世の時代にロシア化政策が強められ、バルト三国は民族覚醒を迎えることとなりました。

独立期

20世紀、ラトビア独立の気運が高まり、ロシア革命において、エストニア人と共にボリシェヴィキと戦い、さらにバルト防衛軍とも戦い、勝利を収めました。1919年、民族自決の原理に従い、ラトビア第一共和国として独立を勝ち取りました。1920年にはソヴィエト・ロシアと和平条約を締結し、民主主義体制での独立を確立しました。しかし、国内政治は不安定で、1934年にはウルマニス独裁政権が成立しました。

第二次世界大戦とソ連の支配

第二次世界大戦が始まると、1940年にラトビアはソ連に併合され、ラトビア・ソビエト社会主義共和国が誕生しました。翌年、ドイツ軍が侵攻しましたが、ラトビア人はこれを「解放軍」として歓迎しました。しかし、ナチスによる迫害が行われ、多くのユダヤ人が虐殺されました。1944年にソ連に再占領され、バルト地方のバルト・ドイツ人は一掃されました。

独立回復

1980年代、バルト三国の中で最も早く独立運動が展開されたのはラトビアでした。1988年にはラトビア独立戦線が結成され、独立運動が進められました。1991年のソ連のクーデター失敗後、ラトビアは独立を宣言しました。その後、バルト三国は北欧資本を受け入れ、経済は安定しました。国際的には、NATOとEUに加盟しました。しかし、国内にはロシア系住民との潜在的な対立が残っています。

ラトビアの歴史は、多くの支配者や民族が交錯し、複雑な変遷を遂げてきました。しかし、独立を勝ち取った今、ラトビアは独自の文化とアイデンティティを確立し、未来に向かって歩んでいます。

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