ラドン川

ラドン川は、ギリシャ南西部に位置するペロポネソス半島を潤す重要な河川の一つです。古代ギリシャ語でΛάδων、現代ギリシャ語でΛάδωναςと呼ばれるこの川は、全長およそ70キロメートルに及びます。ペロポネソス最大の河川であるアルフェイオス川の主要な支流であり、最終的にはアルフェイオス川とともに西方へ流れ、イオニア海へと注ぎます。

地理

ラドン川の源流は、ペロポネソス半島北部のアルカディア地方とアカイア地方の境界近くにそびえるアロアニア山の西側斜面にあります。具体的には、アカイア県に属するクレイトリア市の村、カストリアの近郊から湧き出しています。源流から流れ出した川は、まず南へと向かいます。途中、左岸から支流であるアロアニオス川の合流を受け、美しい谷を形成しながらクレイトリアの町に沿って流れていきます。その後、川はアルカディア県との県境に近づくにつれて、南西へと向きを変えます。

この流路の途上には、ラドン川の水を堰き止めて造られた人工湖、ラドン湖が広がっています。この湖は、1955年に建設されたラドン水力発電所ダムによって誕生しました。細長く蛇行した形状の湖面は、周囲の山々を映し出し、絵のように美しい景観を作り出しています。湖を抜けたラドン川は、再び南へと向きを変え、アルカディア地方を南下します。フィリア付近では、トラグス川が合流し、さらに水量を増します。そして、トリポタミア村の南東約3キロメートルの地点で、遂に母なる川、アルフェイオス川に合流し、その流れを終えます。

ラドン川が流れる地域は、古代からその豊かな自然と清らかな水によって知られており、特にその景観の美しさは古来より高く評価されてきました。

神話

ラドン川は、ギリシア神話の世界においても非常に重要な存在です。詩人ヘシオドスがその著作『神統記』の中で言及した、大洋神オケアノスと女神テテュスの子であるとされる25の主要な河川神の一柱に数えられています。ラドン川自体が、同名の河神ラドンとして擬人化されており、多くの神話においてその存在が語られています。

河神ラドンは、その清らかな水のように美しい、多くの魅力的なニンフや人間の乙女たちの父親であると信じられていました。例えば、太陽神アポロンからの熱烈な求愛を逃れようとしたニンフ、ダプネは、ラドン川の娘であったという説が広く知られています。また、ラドンの娘の一人であるメトペは、ボイオティア地方を流れるアソポス川の河神アソポスと結婚し、テバイ建国に関わる多くの娘たちを産んだと伝えられています。

ラドン川の流域には、かつて河神の娘の一人の名前に由来するとされる都市テルプサが存在しました。しかし、古代ギリシャの地理学者パウサニアスがこの地を訪れた時代には、すでにその町は廃墟となっていたと記録されています。さらに、ローマ建国の英雄とされるアイネイアスに協力したエウアンドロスも、ラドン川の娘と神使ヘルメスの子であるという系譜が語られています。

ラドン川は、単に美しいだけでなく、神話においては穢れを浄化する聖なる力を持つとも考えられていました。有名なエピソードとしては、海神ポセイドンに襲われた女神デメテルが、ラドン川の流れで受けた恥辱を洗い清めたという物語があります。また、牧神パーンに追われたニンフ、シュリンクスがラドン川に阻まれた際、彼女がその川辺で葦に変身したという神話も、ラドン川の神秘的な性格を示唆しています。これらの神話は、ラドン川が古代ギリシャの人々にとって、単なる自然の川ではなく、神聖で力強い存在として認識されていたことを物語っています。

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