ラホール条約

ラホール条約の背景

1846年3月9日に締結されたラホール条約は、第一次シク戦争の講和条約であり、シク王国とイギリス東インド会社の間で結ばれました。この条約は、シク王国の衰退を決定づけ、イギリスによるインド支配を推し進める重要な転換点となりました。

シク王国は、19世紀初頭にランジート・シングによってパンジャーブ地方に築かれ、ラホールを首都として繁栄を誇っていました。しかし、ランジート・シングの死後、王国は政治的な混乱に陥り、クーデターや暗殺が頻発しました。この混乱をイギリスは好機と捉え、1845年12月、インド総督ヘンリー・ハーディングがシク王国に宣戦布告し、第一次シク戦争が勃発しました。

緒戦ではイギリス軍が苦戦したものの、最終的にはソブラーオーンの戦いで勝利し、1846年2月にラホールへ入城しました。この結果、シク王国は降伏を余儀なくされ、講和条約の締結へと進むことになりました。

ラホール条約の内容

ラホール条約の交渉は、ハーディング総督の代理としてフレデリック・カリーが担当し、軍備制限条項についてはヘンリー・モンゴメリー・ローレンスが顧問を務めました。この条約は、シク王国にとって非常に厳しい内容となりました。

まず、シク王国は広大な領土を失い、ジャンムー、カシュミール、ハザーラ、サトレジ川南岸、サトレジ川とビアース川の間の領土がイギリスに割譲されました。また、軍備制限が課せられ、王国が所持していた36挺の銃が没収されました。さらに、サトレジ川、ビアース川、インダス川の一部管理権がイギリスに移り、シク王国の軍事力と経済力を大きく制限しました。

また、この条約では、イギリス東インド会社に協力したグラーブ・シングに対して、ジャンムーとカシュミールの購入が約束されました。これは、後にアムリトサル条約として実現することになります。

追加協定とアムリトサル条約

ラホール条約締結から2日後には追加協定が結ばれ、シク王国軍の再編が完了するまでイギリス軍がラホールに駐留することが決定しました。これにより、イギリスはシク王国内における影響力をさらに強めました。

さらに、戦争賠償金として1500万ルピーを要求されたシク王国は、支払いが困難だったため、ハザーラやカシュミールなどの領土を1000万ルピー相当として割譲し、残りの600万ルピーを現金で支払いました。その後、イギリスはカシュミールをグラーブ・シングに750万ルピーで売却しました。この売却は、1846年3月16日にアムリトサル条約として締結され、グラーブ・シングはジャンムー・カシュミール藩王国の初代君主となりました。

バイローヴァル条約とシク戦争の再発

当初、イギリス軍の駐留は1846年末までと定められていましたが、シク王国の宮廷は、幼いドゥリープ・シングが成人するまで駐留延長を求めました。この結果、1846年12月26日にバイローヴァル条約が締結され、イギリス軍はラホールに駐在官を置き、王国のあらゆる権限を行使できることになりました。

摂政であったジンド・カウルは退任させられ、イギリスが任命する摂政委員会に権力が移譲されました。これにより、シク王国は実質的にイギリスの支配下に置かれました。この不平等な支配に対する不満から、1848年5月には第二次シク戦争が勃発することになります。

まとめ

ラホール条約は、第一次シク戦争の終結を画すると同時に、シク王国の衰退とイギリスによる支配を決定づける重要な条約でした。領土の割譲、軍備制限、イギリス軍の駐留など、その内容はシク王国にとって非常に不利なものであり、その後のアムリトサル条約、バイローヴァル条約と合わせて、イギリスによるインド支配の足がかりとなりました。これらの条約は、シク王国の混乱を背景に、イギリスが巧みに支配権を確立していく過程を示す重要な事例と言えるでしょう。

参考文献

ビパン・チャンドラ 著、栗原利江 訳『近代インドの歴史』山川出版社、2001年。
ブライアン・ガードナー 著、浜本正夫 訳『イギリス東インド会社』リブロポート、1989年。
小谷汪之『世界歴史大系 南アジア史2―中世・近世―』山川出版社、2007年。
P・N・チョプラ 著、三浦愛明 訳『インド史』法蔵館、1994年。

関連項目

* 条約の一覧

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