ラーダ・サマーラ

ラーダ・サマーラ：ソ連/ロシアを代表する大衆車の軌跡

ラーダ・サマーラは、ソ連、そしてロシアの自動車メーカーであるアフトヴァース社が1984年から2013年まで生産した大衆車です。輸出市場では「サマーラ」の名称で親しまれましたが、国内市場では当初「スプートニク（人工衛星）」と呼ばれていました。しかし、1991年にセダンモデルの生産開始を機に、国内でも「サマーラ」の名称が広く普及するようになりました。

開発から生産終了まで

サマーラの開発は、長きにわたる成功を収めたフィアット124の優れた設計をベースに行われました。丈夫な構造と整備性の良さを継承しながらも、近代的なスタイリングを取り入れることを目指しました。3ドア、4ドア、5ドアのハッチバックに加え、セダンモデルもラインナップされ、1.1L、1.3L、1.5Lのガソリンエンジンが搭載されました。

アフトヴァース社にとって、サマーラはニーヴァに続く2番目の自主開発車種であり、フィアット車の派生車種ではないという点でも大きな意義を持っていました。開発過程においては、フォルクスワーゲン・ゴルフ、オペル・カデット、フォード・エスコートなど、ヨーロッパ市場の競合車種を徹底的に分析し、その知見を設計に反映させました。

1984年12月18日、量産第1号車が生産ラインを離れました。当初は1.1L、1.3L、1.5Lエンジンの展開が予定されていましたが、発売当初は1.3Lエンジン搭載の3ドアハッチバックのみが販売されました。このエンジンはポルシェ社の協力を得て開発されたとされ、西側諸国の自動車評論家の中には、ポルシェ社の関与がエンジン開発だけに留まらないと推測する声もありました。

しかし、サマーラは期待されたほどの成功を収めることができませんでした。量産車の品質にばらつきがあったことや、ラーダ車特有の操縦性の悪さ、安っぽく見えるプラスチック製のグリルなど、改善すべき点がいくつも指摘されました。多くのユーザーが社外製のグリルに交換するほど、このグリルは不評でした。

多様なバリエーションと輸出

サマーラには、極少数のロータリーエンジン搭載モデルや、WRC参戦を目的としたプロトタイプモデルも存在しました。特に、パリ・ダカール・ラリーに参戦したグループT3車両「サマーラT3」は、ポルシェ959の駆動系とエンジンを搭載した、サマーラの名前を冠しただけのいわば別物として知られています。

サマーラはヨーロッパやCOMECON加盟国を中心に、世界各国で販売されました。しかし、販売されるモデルや装備は現地ディーラーによって決定され、その結果、国や地域によって仕様が大きく異なることがありました。フランスやベルギー、ドイツなどでは、名称を変えて販売されたケースもあります。

ディーゼルエンジンの需要が高い市場では、プジョー製のディーゼルエンジンを搭載したモデルも販売されました。しかし、1996年から1997年にかけてVAZ社が財政難に陥ったことで、サマーラの輸出は中断。北米やオーストラリア、イギリスなどでは、市場から撤退せざるを得ない状況に追い込まれました。輸出向けモデルに必要な燃料噴射装置キットの供給が滞ったことも、大きな要因の一つでした。

この状況を打開すべく、ヨーロッパ市場向けに高品質版の「ユーロサマーラ」や「サマーラバルティック」がフィンランドで生産されました。しかし、これはあくまで一時的な対策に留まりました。

イギリス市場での苦戦

イギリス市場におけるサマーラの販売は、ソ連での発売から約3年遅れて開始されました。初期は好調でしたが、安価なプラスチック部品が目立つ内装、粗雑な仕上げ、劣悪な操縦性といった点が、西側諸国の競合車に期待する顧客の失望を招きました。価格競争力の高さは魅力でしたが、シュコダ・フェイバリットやヒュンダイ・ポニーといった競合車の台頭により、急速にシェアを落としていきました。

1996年から1997年のJDパワー社の調査では、イギリス市場で最も顧客満足度の低い車にランクインするなど、厳しい評価を受けていました。

サマーラ2と生産終了

1997年以降は、主にロシア国内市場での販売が継続されました。改良版である「サマーラ2」は、1.5Lエンジンや改良型トランスミッションを搭載し、ブレーキや内装も改良されたモデルでした。3ドア、5ドア、セダンモデルが生産され、2000年にはトリヤッチ工場で本格的な量産体制が整いました。しかし、ラーダ110やラーダ・プリオラといった新型車の登場により、サマーラの市場シェアは徐々に減少していきました。そして、2013年、長きにわたる歴史に幕を閉じました。

技術諸元

サマーラは、様々なグレードやエンジンバリエーションが存在し、市場や地域によって仕様が異なっていました。エンジンは1.1L、1.3L、1.5Lのガソリンエンジンが中心で、ごく少数ながらロータリーエンジン搭載モデルもありました。トランスミッションは4速または5速マニュアルトランスミッションが採用されました。シャーシは、前輪駆動、マクファーソンストラット式フロントサスペンション、縦置きアーム式リアサスペンションといった構成です。

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