ラーマ8世

ラーマ8世：謎に包まれた生涯と突然の死

ラーマ8世、アーナンタマヒドンは、チャクリー王朝の第8代国王として1935年から1946年までタイを統治しました。現在でもタイで流通する20バーツ紙幣（旧デザイン）の裏面にその肖像が使用されており、国民に広く知られた存在です。しかし、彼の生涯は謎と憶測に満ちたものでした。特に、31歳の若さで迎えた突然の死は、いまだ多くの議論を呼び、タイにおいては不敬罪に抵触する可能性があるため、深入りすることはタブーとされています。

生い立ちと教育

ラーマ8世は、ラーマ5世の孫、ラーマ6世とラーマ7世の甥にあたります。1925年、ドイツのハイデルベルクで生まれました。1928年に初めてタイへ帰国し、翌年には父であるソンクラーナカリン王子の死を経験。その後は兄弟3人でスイスのローザンヌで教育を受けました。1935年、ラーマ7世の退位に伴い、タイ国会の決定でわずか10歳で即位するも、すぐにスイスに戻り学業を継続しました。第二次世界大戦が始まっても中立国スイスに留まり、静かに時を過ごしました。

謎に包まれた崩御

第二次世界大戦終結後の1945年、ラーマ8世は学業を終えタイへ帰国しました。しかし翌年、1946年6月9日の朝、バンコクのボーロマピマーン宮殿の自室で、額から後頭部に銃弾が貫通した状態で死亡しているのが発見されました。傍らには自動拳銃コルト・ガバメントが落ちていたとされます。

当初は銃の暴発事故の可能性が高いと発表されましたが、プリーディー・パノムヨン首相率いる内閣が設置した調査委員会は、事故、自殺、他殺の3つの可能性を検討。調査の結果、事故と自殺の可能性を否定し、他殺の可能性が高いとの結論を導き出しました。この事件を受け、プリーディー内閣は総辞職。その後を継いだタムロン内閣もクーデターで倒れ、事件に関与したとされる侍従ら5人が逮捕され、裁判にかけられました。証拠不十分ながらも状況証拠などから有罪判決を受け、死刑が執行されました。プリーディー元首相も事件への関与が疑われましたが、既に国外に亡命しており、逮捕は免れました。

生存説と様々な憶測

ラーマ8世の死因については、現在でも様々な憶測が飛び交っています。事件当時に宮殿内にいた人物の証言や、状況証拠、遺体の状況などから、複数の説が唱えられています。彼の耳の形状などから、生存説がささやかれることもありました。

作家でジャーナリストのウィリアム・スティーブンソンは、ラーマ9世の協力の下、この事件を調査し、『革命の王』という著作を発表。旧日本軍の参謀・辻政信による犯行の可能性が高いと示唆しました。しかし、辻政信自身の記録によると、事件当時彼は中国にいたとされており、真相は依然として謎のままです。

タイにおけるタブーと歴史的背景

ラーマ8世の死は、現在でもタイにおいては非常にデリケートな問題であり、不敬罪に抵触する可能性があるため、公に議論されることはほとんどありません。そのため、事件の真相解明は困難を極めています。しかし、この事件はタイ近代史において重要な出来事であり、その背景には複雑な政治情勢や国際情勢が絡み合っていたと考えられています。ラーマ8世の謎めいた死は、タイの歴史に深い影を落としており、今後も多くの研究者や歴史家によって探求されていくことでしょう。

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* セーニー・プラーモート

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