ラーワルピンディー

ラーワルピンディーは、パキスタン北部パンジャーブ州の北端、ポトワール高原に位置する都市です。首都イスラマバードの南約10kmに隣接し、地元では「ピンディ」という愛称で親しまれています。この都市は、北部パキスタンの商工業の中心地であり、同時にパキスタン陸軍司令部や情報機関が置かれる重要な軍事都市としての顔も持っています。

市内には、陸軍医科大学やファーティマ・ジンナー女子大学などの高等教育機関が存在します。かつてはカラーチーからイスラマバードへの遷都が完了するまでの間、1960年から1966年にかけて、一時的にパキスタンの首都としての役割を担っていました。イスラマバードの建設が進むにつれて、ラーワルピンディーは急速な成長を遂げ、人口は18万人から300万人を超えるまでに増加し、パキスタンで3番目に大きな都市となりました。

歴史

ラーワルピンディーの北西約35kmには、ユネスコ世界遺産にも登録されている仏教遺跡タキシラが存在します。5世紀にはエフタルの侵入を受け、その後はしばらくの間、荒廃した状態が続きました。10世紀にはガズナ朝のマフムードがこの地を訪れましたが、特に注目を集めることはありませんでした。1765年、シク教徒がこの地域を支配すると、貿易商人たちが集まるようになり、都市としての発展が始まりました。19世紀初頭には、シュジャー・シャーが亡命生活を送った場所でもあります。

1849年、イギリスがこの地を占領し、避暑地としてマリーが夏の首都に選ばれると、1851年にはラーワルピンディーに駐屯地が設けられました。1860年にはマリー・ブルワリーが設立され、1886年にはノース・ウェスタン鉄道が開通し、イギリス領インド帝国でも最大級の軍事施設が置かれるようになりました。ペシャーワルへの鉄道延伸に伴い、商業面でも発展を遂げました。

独立後

現在のラーワルピンディーは、計画的に建設された近郊の首都イスラマバードとは異なり、生活感あふれる都市としての雰囲気を保っています。目抜き通りである「ベーナズィール・ブットー通り」（旧マリー通り）は、独立後のパキスタンの歴史において、重要な政治的出来事の舞台となってきました。

1951年初めには、初代首相リヤーカト・アリー・ハーンのカシミール問題への対応を不満とするアクバル・カーン陸軍少将らが中心となり、クーデターが計画されました。しかし、この計画は事前に発覚し、3月9日から合計13名が逮捕される事態となりました（ラーワルピンディー陰謀事件）。この逮捕者の中には、ウルドゥー文学を代表する詩人ファイズ・アハマド・ファイズも含まれていました。

1951年10月16日、リヤーカト・アリー・ハーン首相は、マリー通りにある公園での政治集会中に銃撃され、暗殺されました。この公園は、後に彼の名を取り「リヤーカト公園」と改名されました。また、1979年には、大統領だったズルフィカール・アリー・ブットーがラーワルピンディーで絞首刑に処されました。

2003年12月14日には、ラーワルピンディー郊外でムシャラフ大統領の車列が通過した直後に橋が爆破されるという暗殺未遂事件が発生しました。幸い、大統領らに被害はありませんでしたが、その直後の12月25日には、ムシャラフ大統領の車列を狙った自爆テロが発生し、大統領は無事でしたが、一般市民14人が犠牲となりました。

さらに、2007年12月27日には、「リヤーカト公園」でパキスタン人民党の選挙集会に参加しようとした元首相ベーナズィール・ブットーが、自爆テロによる混乱の中、銃撃を受け暗殺されるという悲劇が起こりました（ベーナズィール・ブットー暗殺事件）。彼女の死因は銃撃によるものか、自爆テロによる爆発によるものかは、現在も明確にはなっていません。

交通

市内には、イギリス植民地時代の様式が特徴的なラーワルピンディー駅があり、ペシャーワルとカラチを結ぶ列車が運行されています。

かつて市内にはベナジル・ブット国際空港がありましたが、2018年5月には民間便の運行がイスラマバード国際空港に移転しました。

ラーワルピンディーは、歴史的な出来事や政治的な混乱、そして人々の生活が入り混じる、パキスタンの重要な都市の一つです。

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