リチャード・トルマン

リチャード・C・トルマン：物理学と宇宙論のパイオニア

リチャード・チェイス・トルマン（1881年3月4日-1948年9月5日）は、20世紀を代表するアメリカ人物理学者です。統計力学、物理化学、そして理論宇宙論に多大な貢献を果たし、その業績は現代物理学に大きな影響を与え続けています。

教育と初期の経歴

マサチューセッツ州で生まれたトルマンは、マサチューセッツ工科大学で化学工学を学び、1903年に学士号、1910年に博士号を取得しました。指導教授は著名な化学者アーサー・A・ノイズでした。彼の博士研究は、物理化学の基礎を築くものでした。その後、相対性理論の研究に傾倒し、1912年には運動する物体の質量に関する重要な式を導き出しました。この式は、後に特殊相対性理論の重要な要素となりました。

実験と理論の融合

トルマンは理論研究だけでなく、実験にも積極的に取り組みました。1916年には、トーマス・デイル・スチュアートとの共同研究で、金属導体中の電流が電子によって担われていることを実験的に証明しました。この研究は電子の質量の測定値をもたらす副産物も生み出しました。しかし、彼の名は主に理論物理学者として知られています。

統計力学への貢献

トルマンの主要な研究分野は統計力学です。1927年には、マックス・プランク、ニールス・ボーア、アルノルト・ゾンマーフェルトらによる前期量子論に基づいた統計力学に関する教科書を出版しました。さらに、1938年には古典系と量子系への統計力学の応用を網羅した包括的な研究を発表。これは長年にわたり標準的な教科書として広く利用され、現代の研究者にも参照される重要な著作となっています。

宇宙論への貢献

キャリアの後半において、トルマンは相対論的宇宙論への関心を深めていきました。1934年に発表された『相対論、熱力学、宇宙論』は、膨張宇宙における黒体放射の冷却とエネルギー保存の問題を考察した画期的なモノグラフです。この研究は、後に観測される宇宙マイクロ波背景放射の性質を予測する上で重要な役割を果たしました。この本の中で、トルマンは閉じた宇宙の全エネルギーがゼロになる可能性を初めて示しました。これは、正の質量エネルギーと負の重力エネルギーが釣り合うことで実現するという説です。また、アレクサンドル・フリードマンの提唱した振動宇宙モデルについても深く研究し、エントロピーに関する問題点を指摘しました。

マンハッタン計画と晩年

第二次世界大戦中は、マンハッタン計画においてレスリー・グローヴス将軍の科学顧問として活動しました。戦後も、国連原子力委員会の顧問を務めるなど、科学技術政策にも関与しました。1948年、パサデナで逝去しました。

トルマンの遺産

リチャード・C・トルマンの業績は、物理学、特に統計力学と宇宙論に多大な影響を与えました。彼の著作は今もなお研究者によって参照され、彼の名前は数多くの概念や方程式に刻まれています。例えば、トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ方程式やトルマン長、そしてトルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界などです。彼の弟は著名な行動心理学者エドワード・トルマンであり、兄弟揃って学問に貢献した一家としても知られています。アメリカ化学会の南カリフォルニア支部では、彼の功績を称え「Tolman Medal」を毎年授与しています。彼の研究は、現代物理学の基礎を築き、宇宙の理解を深める上で重要な役割を果たしたといえるでしょう。

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