リチャード・マニュエル

リチャード・マニュエル：音楽に捧げた生涯と悲劇的な結末

リチャード・マニュエル（Richard Manuel、1943年4月3日 - 1986年3月4日）は、カナダ・オンタリオ州ストラスフォード出身のミュージシャンであり、伝説的ロックバンド、ザ・バンドのメンバーとしてその名を知られています。彼はボーカル、ピアノ、ドラムなど、多様な楽器を演奏し、その音楽的才能を発揮しました。

幼少期から音楽への目覚め

マニュエルは、自動車工場で働く父親のもとに生まれ、幼い頃から音楽に親しむ環境で育ちました。聖歌隊で歌い、ピアノを学ぶ中で、音楽的才能を開花させていきます。やがて彼は、レイ・チャールズ、ボビー・ブランド、ジミー・リード、オーティス・ラッシュといった黒人音楽のブルースやR&Bに強く惹かれ、音楽への情熱を深めていきました。

1957年頃には、中学生の時にザ・レヴォルズというバンドで活動を開始し、音楽活動を本格化させます。1961年夏には、ロニー・ホーキンスのショーの前座で演奏したことがきっかけで、ホーキンスにスカウトされ、彼のバックバンド「ザ・ホークス」に参加することになりました。

ザ・バンドとしての成功と苦悩

ザ・ホークスはその後、1965年にボブ・ディランのバックバンドとして活動。1968年にはザ・バンドと改名し、レコードデビューを果たします。初期の3作のアルバムでは、リチャードは積極的に作曲にも取り組みました。また、ヴォーカリストとしても、デビュー・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』に収録された「アイ・シャル・ビー・リリースト」で、その繊細で情感豊かな歌唱を披露し、高い評価を得ました。ロビー・ロバートソンは彼の歌声について、「どこからか悲しみが漂っている」と評しています。ザ・バンドのメンバーも、リチャードをメインボーカリストとして認識していました。

2作目のアルバム『ザ・バンド』からは、ドラムも担当するようになります。ドラム経験がなかったにもかかわらず、その才能を発揮し、ドラマーのリヴォン・ヘルムに「おれよりリチャードの方が上手いよ」と言わしめるほどでした。「ラグ・ママ・ラグ」のレコーディングでは、リヴォンのドラムがうまくいかず、代わりにリチャードが叩いたところ、その素人っぽさが良い効果を生み、楽曲の魅力を引き出すことに成功しました。

穏やかな性格で仲間から「ビーク」と呼ばれ親しまれていたリチャードでしたが、その一方で、アルコールやドラッグに溺れるようになり、次第に作曲活動は衰えを見せ始めます。声も荒れ、奇行が目立つようになり、私生活も荒れていきました。しかし、友人たちの支えにより、音楽活動を続けることができました。

悲劇的な最期

1976年11月25日に行われたラスト・ワルツコンサートで、ザ・バンドは一旦解散。しかし、1983年にはロビー・ロバートソンを除くメンバーで再結成を果たしますが、かつての輝きを取り戻すことはできませんでした。リチャードはますます酒と薬に溺れるようになり、1986年3月4日、フロリダ州ウインター・パークにあるモーテルの一室で首を吊って自殺しているのが発見されました。生前にソロアルバムをリリースすることは叶いませんでしたが、死後、1985年のライブを収録したライブ盤が発表されています。

エリック・クラプトンの「ホーリー・マザー」は、リチャード・マニュエルに捧げられた曲として知られています。また、カウンティング・クロウズの2002年のアルバム『ハード・キャンディ』には、「リチャード・マニュエルが死んだ」という副題のついた曲が収録されています。彼の音楽と人生は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

ディスコグラフィー（ライブ・アルバム）

『ウィスパリング・パインズ〜ソロ・ライヴ』 - Whispering Pines: Live at the Getaway (2002年) ※1985年10月12日ライブ録音
『ライヴ・イン・スクラントン1985』 - Live at O'Tooles Tavern (2009年) ※1985年12月12日ライブ録音（ペンシルベニア州スクラントン） with リック・ダンコ
『ライヴ・アット・ザ・ローン・スター・カフェ1985』 - Live at the Lone Star (2011年) ※1985年1月ライブ録音（ニューヨーク） with リック・ダンコ、ガース・ハドソン

関連項目

ガース・ハドソン

もう一度検索