リハビリテーション法第508条

アメリカ合衆国リハビリテーション法第508条について

本稿では、アメリカ合衆国におけるリハビリテーション法第508条（以下、「第508条」）について解説します。第508条は、合衆国法典第29編第794d条（29 U.S.C. § 794d）に規定されており、連邦政府機関が所有する電子情報技術のアクセシビリティを向上させ、障害を持つ人々が情報にアクセスしやすくすることを目的としています。

第508条の制定背景

1998年、アメリカ合衆国議会は「1973年リハビリテーション法」を大幅に改正し、第508条を追加しました。この改正は、連邦政府機関が所有する電子情報技術のアクセシビリティを向上させることを義務付けたものです。情報へのアクセスは、障害の有無に関わらず、全ての人々にとって不可欠であるという考え方が根底にあります。

第508条は、「情報アクセスの技術的障壁を取り除き、障害を持つ人々が利用できるような技術開発を促進する」ことを目指しています。この法律は、政府機関が電子情報技術を新規導入、改良、保守、使用する際に、障害を持つ従業員や一般市民が、健常者と同様に情報にアクセスできるようにすることを義務付けています。

第508条の改正履歴

第508条は、1986年の「1973年リハビリテーション法」改正時に初めて追加されました。この時の第508条は、電子情報技術の将来的な発展を見据えたものでしたが、当初は遵守義務がなく、実質的に機能していませんでした。

1997年、この欠陥を修正するために「連邦政府電子情報技術責任法案」が提出されました。この法案は、元の第508条が実質的に機能していなかったことを背景に、遵守義務を明記したものでした。1998年、この法案が一部修正され、「改正1973年リハビリテーション法第508条」として施行されました。

第508条の課題と対策

第508条には、曖昧な点も存在します。例えば、政府が市場調査や政府調達を行う際に、よりアクセシブルな情報技術を探すことを義務付けていますが、既存の技術がアクセシビリティ基準を満たしていなくても、それ以上の技術が存在しない場合は、既存技術の使用が認められる場合があります。この点が、合衆国アクセス委員会が定める技術的課題と矛盾する可能性があります。

この矛盾を解消するためには、まず法律と技術水準を十分に理解した上で、調達手順の見直し、購入・システム開発に関する契約の文書化、技術革新と標準化を進める必要があります。アクセシビリティチェックツールとしては、BobbyやAccVerifyなどが存在しますが、アクセシビリティの厳密な評価は非常に難しいのが現状です。

第508条の適用範囲

第508条は、個人のウェブサイトには適用されません。ただし、連邦助成金を受けているサイトや、連邦機関と契約しているサイトには適用されます。商用サイト向けには、W3C/WAIによる自主基準やガイドラインが存在します。

第508条の例外事項

連邦機関が技術基準を満たしていなくても、法令違反にならない例外事項が第508条の§1194.3に規定されています。国家安全保障に関わるシステム、一般ユーザーが使用しない付随的なシステム、障害を持つ人が触れる可能性のないシステム、製品の設定を変更するシステム、システムのメンテナンスなどが対象です。

ただし、連邦政府機関のシステムが第508条の基準を満たしていない場合、その機関は障害を持つ人に、他の手段で情報を提供する必要があります。

第508条の施行規則

施行規則は、アクセス委員会（正式名称：建設・輸送障害問題解決協議委員会）によって作成されました。2001年12月には、電子情報技術のアクセシビリティ向上に関する最終草案（Final Standards）が発表され、2001年6月25日に施行されました。

アクセス委員会は、この基準の実施に関する情報をニュースレター「Access Currents」で提供しています。第508条の基準、ツール、各種情報は、連邦一般調達局内の情報技術設備センター（CITA）のウェブサイト（section508.gov）から入手可能です。

第508条が定める技術基準の概要

第508条は、以下の技術基準を定めています。

ソフトウェアアプリケーションおよびオペレーティングシステム：代替キーボード対応など、視覚障害者向けの機能を備える。
ウェブサイト：スクリーンリーダーや点字ディスプレイに対応し、画像には代替テキストを付与する。
電子通信プロダクト：補聴器や聴覚障害者向けの通信装置に対応する。
ビデオおよびマルチメディアプロダクト：文字表示機能を備え、キャプションやビデオ記述子のオンオフを可能にする。
コンテンツ内蔵プロダクト（キオスク端末など）：初期段階からアクセシビリティを確保する。
デスクトップおよびポータブルコンピュータ：キーボードやタッチパネルにアクセシビリティを付与する。

よくある質問（FAQ）

第508条は「障害を持つアメリカ人法」の一部ですか？
いいえ、第508条は「1973年リハビリテーション法」の修正条項です。「リハビリテーション法第504条」は「障害を持つアメリカ人法」と関連があります。
第508条はW3Cの「ウェブコンテンツアクセシビリティガイドライン」（WAI）と関連がありますか？
WAIに似ていますが、完全に同一ではありません。アクセス委員会はアクセシビリティ基準を定める際にWAIを参考にしていますが、WAIには実施義務がありません。第508条のアクセシビリティ基準は実施義務があり、違反した場合は裁判を起こすことができます。
連邦政府の機関のウェブサイトが第508条に適合するにはどうすればよいですか？
第508条の第1194部第22条に記載された16の条件を満たす必要があります。アクセス委員会のウェブサイトで詳細な注釈を確認できます。アクセス委員会は、第508条の規格を修正するための諮問委員会も設立しています。
アクセシビリティとユーザビリティの違いは何ですか？
第508条はアクセシビリティを向上させることを目的としていますが、必ずしもユーザビリティを保証するものではありません。ユーザビリティは連邦規定に縛られず、政府や企業にとって効率的な技術です。
第508条の適用が免除される機関はありますか？
第508条はすべての連邦政府機関に適用されますが、国家安全保障など例外事項も存在します。また、リハビリテーション法第501条、504条なども障害者の情報アクセスを保証しており、代替手段の提供が求められる場合があります。

関連項目

コンピュータアクセシビリティ
ウェブアクセシビリティ
システムテスト

参考資料

Section 508 Official Web Site
JimThatcher.com - Section 508 Web Accessibility Tutorial

外部リンク（英語）

CITES/DRES Web Accessibility Best practices
United States Access Board
Section 508 Checklist from WebAIM.org
USPS AS-508-A, Section 508 Technical Reference Guide (HTML, PDF)
Federal Register (December 2000, April 2005)
Voluntary Product Accessibility Template (VPAT) Guidelines

外部リンク（日本語）

米国アクセス委員会 第508条の日本語訳
JEITA リハビリテーション法508条修正版法律全訳 和文英文対訳
平野美惠子 米国の電子政府法 (PDF) リハビリテーション法第508条の位置付け
無料アクセシビリティデモ及びテストサイト
University of Illinois Functional Accessibility Evaluator
University of Illinois Firefox Accessibility Extension
WebXACT - Section 508 Compliance testing web page
Hermish.com's Web accessibility validator
accessibility validation demo
Truwex, Section 508 Compliance Validation Tool
Automated Test Tool fails due diligence
About Web Accessibility Testing
Accessibility Testing Software Compared
* imergo Web Compliance Manager

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