リュウノウギク

リュウノウギク（竜脳菊）について

リュウノウギクは、キク科キク属に分類される多年草で、野菊の一種として知られています。晩秋の時期に、キクによく似た花を咲かせますが、その茎は細く、やや頼りない印象を受けます。

名前と香り

和名の「リュウノウギク」は、茎や葉に含まれる香りが、竜脳という香料に似ていることに由来します。しかし、実際には樟脳に近い香りで、成分的にも樟脳が多く含まれています。この香りが特徴的で、古くから利用されてきました。

生息地

リュウノウギクは日本固有種であり、福島県、新潟県以南の本州、四国、九州の一部に分布しています。山地や丘陵の森林周辺、特に林縁部の日当たりの良い場所を好んで生育します。自然な地形では崖地で見られることもありますが、開けた草原や河川の土手などには出現しません。石灰岩地にもよく見られます。地下茎を長く伸ばして、まばらに複数の茎を立て、小さな群落を作ることが特徴です。

植物としての特徴

草丈は30cmから50cm程度で、茎は細く、やや立ち上がりますが、真っ直ぐに伸びることは少なく、斜めに伸びたり、斜面から垂れ下がったりします。茎の下部は木質化しますが、全体的に細くて頼りない印象です。

葉は長さ4cmから8cmで、楕円形をしています。葉は浅く三つに裂けており、さらに粗い鋸歯があります。表面は緑色で毛があり、つや消しです。裏面には短い毛が密生していて白っぽく見えます。この毛はT字型をしているのが特徴です。

花と果実

花期は10月から11月で、ヨメナやノコンギクよりも遅く咲きます。花は茎の先端に単独か、せいぜい2-3個しか付きません。花径は2.5cmから5cmで、外側には白い舌状花が並び、真ん中の管状花は黄色です。舌状花は楕円形で、ヨメナなどと比較すると丸みを帯びています。果実は痩果で、長さは約1.5mm、縦の稜があります。冠毛は無く、目立ちません。

利用

リュウノウギクは、その独特な香りと成分から、古くから薬草として利用されてきました。特に花期の茎葉には、精油成分（エル・カンフェン、シエル・カンフェンなど）やクロロフィルが含まれています。精油は、皮膚の血液循環を促進し、筋肉の痛みを和らげる効果があるとされています。採取は10月頃に行い、開花した茎葉を根元から刈り取り、陰干しにします。乾燥させたものを布袋に入れて入浴剤として使用すると、体が温まり、肩こり、腰痛、筋肉痛などの緩和に効果があるとされています。また、生の茎葉をすり潰して、少量の生姜と合わせて湿布として用いることもあります。

分類と変異

キク属には多くの種が存在し、特に白い舌状花を持つ種は互いによく似ています。しかし、リュウノウギクは、多くが海岸部に生息する種とは異なり、内陸部に分布しています。また、染色体数も特徴的で、多くの種が倍数体であるのに対し、リュウノウギクは2n=18であり、白い舌状花を持つ種の中では唯一の2倍体です。

種内変異としては、ワカサハマギク（var. wakasaense）があり、これはリュウノウギクよりも一回り大きく、福井県から鳥取県の海岸部や伊吹山などの石灰岩地に分布します。ワカサハマギクは、リュウノウギクの染色体数が倍増した種だと考えられています。


リュウノウギクは、その独特な香りと薬効、そして美しい花姿から、古くから人々に親しまれてきた植物です。

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