野菊

野菊（のぎく）とは

野菊とは、一般的に野生の菊を指す言葉です。特定の植物種を指すのではなく、キク科の植物で、特に野生で生育し、菊に似た花を咲かせるものの総称として用いられます。日本には様々な種類の野菊が存在し、地域によって見られる種類も異なります。

菊と野生種について

私たちが一般的に「菊」と呼んでいる栽培菊（和名：キク、学名：Dendranthema grandiflorum）は、野生種ではなく、中国で品種改良されたものが日本に伝来したと考えられています。そのため、厳密には「菊の野生種」というものは存在しません。

しかし、日本には菊に似た花を咲かせる植物が多数存在し、これらが「野菊」として親しまれています。図鑑などではヨメナの別名として紹介されている場合もありますが、近年ではノギクをヨメナの別名とは見なさないことが一般的です。現在、最も身近に見られる野菊の一つがヨメナですが、近似種との区別は容易ではなく、複数種が混同されているのが現状です。

キク科植物は日本に約350種もの野生種があり、帰化種や栽培種も多く存在します。これらの多くが「〇〇ギク」という名前を持ち、その中でも菊に似たものが様々な属に存在します。

野菊の範囲

野菊とは、野生の植物で、菊のように見えるものを指します。キク科植物には共通する特徴があり、それは頭状花序と呼ばれる花の構造です。これは、多数の小さい花が集まって一つの花のように見えるもので、舌状花（花弁が1枚）と管状花（花弁が筒状）の2種類の花で構成されています。

キクの場合、外側に舌状花が並び、内側に管状花が密集するのが基本ですが、栽培種には様々な形があります。この特徴を持つキク科植物は非常に多く、ガーベラ、ヒマワリ、コスモスなどもそうです。しかし、これらの花が野生で生えていても「野菊」とは呼ばれません。

野菊と呼ばれるには、草の姿も重要です。ヒマワリのように大きすぎるもの、タンポポやガーベラのように根元から葉が生えるロゼット状のものは、野菊とは見なされません。背が高くなりすぎず、茎に葉がついている必要があります。また、アキノキリンソウのように花が小さすぎるものも、野菊らしくありません。さらに、「菊」といえば秋の花であるため、秋に咲くものが野菊と呼ばれることが多いです。

代表的な野菊

以下に、代表的な野菊を属ごとに紹介します。

キク属 Dendranthema

キクと同属の植物は日本に約15種あります。舌状花を持たないものもありますが、多くは野菊として認識されます。株立ちになり、茎は直立または斜めに伸び、葉が互い違いにつきます。葉は丸みを帯びた形で、大きな鋸歯があったり、深く裂けていたりします。管状花は黄色、舌状花は白または黄色です。冠毛はありません。

代表的なものとしては、

• - リュウノウギク D. japonicum (白い花、山野に生える)
• - シマカンギク D. indicum (黄色い花)
• - キクタニギク D. boleare
• - ノジギク D. occidentali-japonense (白い花、海岸に生える)
• - コハマギク D. arcticum subsp. maekawanum

などがあります。特にリュウノウギクとシマカンギクは、典型的な野菊と言えるでしょう。また、イソギクのように舌状花のない花をつけるものや、種間雑種も存在するため、判別が難しい場合があります。

シオン属 Aster

単独の茎が高く伸びるものが多いです。根元に葉があるものと、茎に葉がつくものがあります。茎の先端が枝分かれし、多数の菊のような花を咲かせます。舌状花は白または紫色を帯びます。種子には長い冠毛があります。

• - シオン：大型で栽培されることが多く、野生の場合は野菊として認識されることがあります。
• - ノコンギク A. ageratoides subsp. ovatus：最も一般的な野菊の一つで、薄紫色の花を咲かせます。コンギクとして栽培もされています。

その他、ヤマシロギク、シロヨメナ、シラヤマギク、ゴマナ、サワシロギクなどもよく見られます。特殊なものとしては、ウラギク、イソノギク、カワラノギク、ホソバノギクなどがあります。

ヨメナ属 Kalimeris

地下茎があり、群生します。葉は細いものが多いです。冠毛はごく短く、肉眼ではほとんど見えません。

• - ヨメナ K. yomena：道端で最もよく見かける野菊の一つで、薄紫色の花を咲かせます。カントウヨメナ、オオユウガギクなど、地域によって異なる近縁種があります。

ハマベノギク属 Heteropappus

ヨメナ属やシオン属に似ていますが、種子の冠毛に2種類の長さのものがあります。

• - ヤマジノギク H. hisidus：乾燥した原野に生え、細い葉を持ち、白い花を咲かせます。
• - ハマベノギク H. h. subsp. arenarius：海岸の砂地に生え、茎は這い、葉はさじ型をしています。

ハマギク属 Nipponanthenum

茎は木質化し、丸くて厚い葉をつけ、やや大きめの白い花を咲かせます。

• - ハマギク N. nipponicum：東北地方の海岸線に生育します。江戸時代から栽培されています。

その他の野菊

上記以外にも、ミヤマヨメナ、センダングサ、ムカシヨモギ、シカギク、オグルマ、キオン、ウサギギクなど、様々な植物が野菊に似た花を咲かせます。

どこで見られる？

• - 道端：ノコンギク、ヨメナ、およびこれらの近縁種
• - 自然豊かな野外：上記2種に加え、リュウノウギク、キクタニギク、ヤマシロギク、シラヤマギク、ゴマナなど
• - 海岸線の岩場や砂浜：地域によって異なる種が生育

これらの大部分は本州に分布しており、北海道にはシラヤマギク、サワシロギク、エゾノコンギクなどが、沖縄ではコヨメナが生育しています。

野菊は、日本の秋を彩る身近な野草です。ぜひ、野山を散策して、様々な種類の野菊を探してみてください。

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