リュシマコス

リュシマコス：アレクサンドロス大王の遺将、波乱に満ちた生涯

リュシマコス（紀元前360年 - 紀元前281年）は、アレクサンドロス大王に仕えたマケドニア王国の将軍であり、その死後、ディアドコイ（後継者たち）の一人としてトラキア、小アジア、そしてマケドニアの王となりました。彼の生涯は、権力闘争と戦乱に彩られた波乱に満ちたものでした。

アレクサンドロス大王の側近として

リュシマコスはテッサリア出身のアガトクレスの子として、マケドニアのペラで生まれました。彼はアレクサンドロス大王の東征に側近護衛官として参加し、紀元前326年のサンガラでの戦いで負傷するなど、王の傍らで数々の戦いを経験しました。また、インドの哲学者カラノスに師事し、その死後には彼の馬を贈られるなど、大王との親密な関係を築きました。

ディアドコイ戦争での活躍

アレクサンドロス大王の死後、リュシマコスは紀元前323年のバビロン会議でトラキアとケルソネソスの太守に任命されました。その後、遺将たちの間で繰り広げられたディアドコイ戦争では、カッサンドロスを支持し、ポリュペルコン派の将軍を討ち取るなどの活躍を見せました。紀元前315年には、エウメネスを倒して勢力を拡大していたアンティゴノスに対抗するため、カッサンドロス、プトレマイオス、セレウコスと同盟を結びました。紀元前306年には、アンティゴノスが王を称すると、リュシマコスもそれに倣い、トラキア、小アジア、そしてマケドニアの王を名乗りました。

紀元前301年のイプソスの戦いでは、リュシマコスはセレウコスと連合し、アンティゴノスを討ち破りました。この戦いの後、リュシマコスはリュディア、イオニア、フリュギア、そして小アジアの北岸を手に入れ、その勢力を拡大しました。その後、セレウコスの台頭を警戒したリュシマコスは、プトレマイオスと同盟を結び、彼の娘アルシノエ2世と結婚しました。

マケドニア王へ

紀元前297年、カッサンドロスの息子たちがマケドニアの王位をめぐって争うと、リュシマコスはこれに介入。アンティパトロス2世とデメトリオス（アンティゴノスの子）との間で巧みに立ち回り、最終的にデメトリオスをマケドニア王として認めさせました。しかし、後にデメトリオスの勢力拡大を警戒したリュシマコスは、プトレマイオス、セレウコスと手を組み、デメトリオスを破ってマケドニアを奪い、紀元前284年に単独のマケドニア王となりました。

晩年と最期

リュシマコスの晩年は、後継者問題によって不幸なものとなりました。アルシノエ2世が自身の息子に王位を継がせようと画策し、リュシマコスの長子アガトクレスを陥れ、処刑してしまいます。この事件をきっかけに、多くの都市がリュシマコスに対して反旗を翻し、彼の勢力は衰退に向かいます。

紀元前281年、リュシマコスはセレウコスとの戦いで敗死しました。享年79歳でした。彼の死後、王国はセレウコスによって併合されましたが、その直後にセレウコスはリュシマコスの妻アルシノエ2世の異母兄弟であるプトレマイオス・ケラウノスによって暗殺され、リュシマコスの王位はケラウノスによって継承されました。その後、ケラウノスもガリア人との戦いで戦死し、リュシマコスの王国は、その後、混乱と変遷をたどることとなりました。

人物像と逸話

リュシマコスは、勇猛な戦士である一方で、情に厚い一面も持ち合わせていました。アレクサンドロス大王の不興を買って見世物にされていた哲学者カリステネスを哀れみ、毒を盛って死なせてやったという逸話は、その一面を物語っています。また、かつて結婚した妻ニケアに敬意を表して、ビテュニアの都市をニカイアと改名したというエピソードも残っています。

リュシマコスは、アレクサンドロス大王の死後の混乱期を生き抜き、自らの王国を築き上げた人物でした。しかし、後継者争いに翻弄され、その生涯を終えることとなりました。彼の生涯は、当時の激しい権力闘争と戦乱を象徴するものとして、歴史に刻まれています。

参考文献
アッリアノス『アレクサンドロス大王東征記』
ポンペイウス・トログス / ユスティヌス抄録『地中海世界史』
ディオドロス『アレクサンドロス大王の歴史』
メムノンの『ヘラクレイア史』

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