リンゴを持つ女性

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作『リンゴを持つ女性』

『リンゴを持つ女性』（別名『女性の肖像』）は、イタリア盛期ルネサンスの巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1550年から1555年頃に制作した油彩画です。この作品は、その官能的な美しさで知られ、現在、ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートに所蔵されています。

作品の特徴

この絵画は、鑑賞者を見つめる女性を四分の三身で描いています。彼女は長い金髪と白い肌を持ち、両手でリンゴを持っています。リンゴは、芸術において女性の官能性を象徴することが多く、この絵画でもその役割を果たしていると考えられます。

女性は、花輪を髪に飾り、宝石の付いた緑色の縁飾りのある衣服を、金糸の縁取りのある白いドレスの上に羽織っています。この豪華な衣装は、彼女の地位や美しさを強調しています。

モデルの謎

この絵画のモデルについては、様々な説があります。かつては、トラエエット公爵夫人ジュリア・ディ・ゴンザーガ＝コロンナであると考えられていましたが、後にティツィアーノの娘ラヴィニア・ヴェチェッリオ、あるいはキプロスの女王カタリーナ・コルナーロであるという説も提唱されました。しかし、これらの説を裏付ける歴史的な証拠は存在せず、現在では、モデルは特定の人物ではなく、当時の美の理想を表していると考えられています。

当時のヴェネツィア派の画家たちは、若い美しい女性の絵画を多く描きましたが、それらが実際の人物を表しているのか、あるいは理想化された美なのかは不明です。一部の研究者は、これらの女性像が当時のヴェネツィアの娼婦を表している可能性も指摘していますが、確証はありません。

したがって、この絵画は伝統的な肖像画というよりも、依頼主である男性の顧客にアピールする、甘美で官能的な女性の理想美を描いたものと解釈するのが妥当でしょう。

構図の源泉

美術史家のポール・ジョアニデスとルパート・フェザーストーンは、この作品が『アレクサンドリアの聖カタリナとしてのカタリーナ・コルナーロの肖像』から派生したと指摘しています。この作品は現存していませんが、工房による複製が残っています。二つの作品の構図は非常に似ており、『リンゴを持つ女性』は、工房との協力で制作された『ラ・ベッラ』シリーズの原型になったと考えられます。科学的な分析の結果、この作品がロンドンのアプスリー・ハウス所蔵の『バラの花輪を持つ若い女性』に影響を与えたことも判明しています。

帰属と制作年代

この作品の帰属については、専門家の間で意見が分かれています。ウィルヘルム・エミル・スイダ、バーナード・ベレンソン、ロドルフォ・パッルッキーニ、フランチェスコ・ヴァルカノーヴァなどはティツィアーノの作品として認めていますが、オスカー・フィッシェルは工房作、デトレフ・フォン・ハーデルンとハロルド・ウェゼイは追随者による模倣作と見なしました。ハンス・ティーツェとエリカ・ティーツェ・コンラートはティツィアーノの作であることを否定しています。しかし、保存状態の悪さを考慮すると、否定的な見解はやや厳しいと言えるでしょう。

制作年代に関しては、ジョルジョ・タリアフェッロが1550年代後半を提唱しましたが、スイダ、パッルッキーニ、ヴァルカノーヴァは1550年から1555年頃としており、ピーター・ハンフリーも後者の説を支持しています。様式上の理由から、1540年代後半に制作された可能性も否定できません。

来歴

この絵画は、17世紀にリシュリュー枢機卿の顧問であったミシェル・パティチェッリ・デメリのコレクションとしてパリに存在し、彼の義理の息子ルイ・フェリポー・ド・ラ・ブリリエールに相続されました。その後、19世紀にジョージ・ウィルブラハムのコレクションとしてチェシャー州のダラメール・ハウスで記録され、三代にわたって相続されました。1929年1月に美術商デュヴィーン・ブラザーズに購入され、1938年にニューヨークのサミュエル・H・クレス財団に売却され、1939年にナショナル・ギャラリー・オブ・アートに寄贈されました。

まとめ

ティツィアーノの『リンゴを持つ女性』は、ルネサンス期ヴェネツィア派の美意識を体現する作品であり、女性の官能美と理想美を描いた傑作として、今日でも多くの人々を魅了しています。

参考文献

Duveen Brothers (1941). Duveen Pictures in Public Collections of America. New York: William Bradford Press.
Frankfurter, Alfred M. (16 March 1940). "Great Renaissance Portraits: A Unique Exhibition of Twenty-five Italian Masterpieces". The Art News, 38(24): pp. 7–9, 21.
Morassi, Antonio (1967). "Titian". In Encyclopedia of World Art. Vol. 14. London: McGraw-Hill Publishing Company Limited.
"403. Portrait of a Lady (Giulia di Gonzaga-Colonna ?)". Preliminary Catalogue of Paintings and Sculpture. Washington, D.C.: National Gallery of Art, 1941.
"Portrait of a Lady". Paintings and Sculpture from the Kress Collection. Washington, D.C.: National Gallery of Art, 1945.

外部リンク

ナショナル・ギャラリー・オブ・アート公式サイト、ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『リンゴを持つ女性』

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