リンダン・ハーン

リンダン・ハーン：波乱の生涯とモンゴル統一への夢

リンダン・ハーン（1590年 - 1634年）は、モンゴル帝国の第40代皇帝であり、北元としては第26代皇帝にあたります。彼はチャハル・トゥメンの当主であり、ブヤン・セチェン・ハーンの孫、マングス太子の長男として生まれました。漢字では林丹汗、虎墩兔とも表記されます。

若き日の即位と仏教への傾倒

1603年、祖父ブヤン・セチェン・ハーンが崩御し、父マングス太子が既に亡くなっていたため、14歳という若さでリンダン・バートル太子が帝位を継承、フトゥクト・ハーンとなりました。彼は即位後、マイトレーヤ法王やチョネ・チョエジェといった高僧から深い秘密乗の灌頂を受け、熱心に仏教を信仰し、その保護者となりました。1617年には、チベット仏教サキャ派の高僧ダクチェン・シャルパ・フトゥクトからも灌頂を受けています。

また、リンダン・ハーンは「白い都」と呼ばれる都市を築き、多くのチベット仏教寺院を建立するなど、仏教文化の発展に貢献しました。

モンゴル再統一への挑戦と挫折

リンダン・ハーンは、分裂状態にあったモンゴル諸部族を自らの下に再統一することを強く望んでいました。しかし、彼の強権的な統治は、それまで対等な関係にあった他のモンゴル諸部族からの反発を招きました。特に、ホルチン部は、当時勢力を拡大していた満洲の後金国主ヌルハチと同盟を結び、後金軍が内ハルハを支配下に入れ、さらに熱河まで進出するという事態を引き起こしました。

後金国のホンタイジの圧迫を受けたリンダン・ハーンは、1627年に西方へと移動せざるを得なくなります。1628年には、ハラチン部とトゥメト部の両ハーン家を滅ぼし、フヘ・ホト（現在のフフホト）を占領。さらに河套地方のオルドス部を服従させ、北モンゴルへと勢力を拡大しました。当時、北モンゴルで最も力を持っていたハルハ部のアバダイ・ハーンの甥であるトゥメンケン・チョクト・ホンタイジがリンダン・ハーンに忠誠を誓ったことで、リンダン・ハーンは一時的に全モンゴルを支配下に置くことに成功しました。

遠征中の病没と遺産の喪失

1634年、44歳になったリンダン・ハーンは、チベット遠征に出発し、青海地方を目指しましたが、その途上、シャラ・タラの草原（現在の甘粛省武威県、永昌県方面）で病死しました。リンダン・ハーンの不在中、満洲のホンタイジ率いる後金軍は、フヘ・ホトを占領し、翌1635年には、リンダンの遺児であるエジェイが後金に降伏しました。さらに、元朝皇帝に伝わる玉璽「制誥之宝」を後金に献上するという、モンゴル帝国にとって大きな痛手となる出来事が起こりました。

リンダン・ハーンの歴史的意義

リンダン・ハーンは、モンゴル帝国の再興を目指し、一時的にモンゴルを統一するという成果を上げましたが、後金との対立や自身の病死によって、その夢は実現しませんでした。しかし、彼の生涯は、モンゴル帝国の終焉と、新たな時代の幕開けを象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

参考文献

宮脇淳子『モンゴルの歴史 遊牧民の誕生からモンゴル国まで』（刀水書房、2002年、ISBN 4887082444）
岡田英弘訳注『蒙古源流』（刀水書房、2004年、ISBN 4887082436）
岡田英弘『モンゴル帝国から大清帝国へ』（藤原書店、2010年11月、ISBN 4894347725）
石濱裕美子 『リンデン=ハーン碑文に見るチャハルのチベット仏教』、アジア・アフリカ言語文化研究(79), pp121-143, 2010年

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