ハルハ

ハルハの歴史：モンゴルを形作った遊牧民たち

ハルハ（Khalkha）は、現代モンゴル国の主要民族であり、その歴史は、近世モンゴルにおける主要部族の一つとしての興隆から、清朝との複雑な関係、ジュンガルとの激しい抗争、そして20世紀初頭のモンゴル独立へと至る、劇的な変遷に彩られています。この文書では、ハルハの起源からモンゴル国の形成に至るまでの歴史を、五部ハルハと七旗ハルハの二つの主要な分派を中心に詳しく見ていきます。

ハルハの起源とダヤン・ハーン

ハルハの起源は、元朝の左翼五投下のジャライル部ムカリ国王家の支配下にまで遡ります。その名称は、ハルハ川に由来すると言われています。15世紀末、バト・モンケがダヤン・ハーンとして即位すると、モンゴルは大きく左翼と右翼の二分され、左翼はチャハル、ハルハ、ウリヤンハン、右翼はオルドス、トゥメト、ヨンシエブの六大部族に再編されました。これらの部族は「トゥメン」（万人隊）と呼ばれ、ハルハもハルハ・トゥメンとして知られていました。

五部ハルハと七旗ハルハ

ダヤン・ハーンの五男アルジュボラトと十一男ゲレセンジェがそれぞれハルハ・トゥメンの首長となると、モンゴル宗家であるチャハルとトゥメトの間で権力闘争が勃発。この争いを機にハルハは二つの勢力に分裂します。アルジュボラトの系統はダライスン・ハーンに従い大興安嶺山脈東に移住し、「五部ハルハ」（タヴ・オトク・ハルハ）または「内ハルハ」と呼ばれました。一方、ゲレセンジェの系統はアルタン・ハーンに属し、「七旗ハルハ」（ドロー・ホシューン・ハルハ）または「外ハルハ」と呼ばれ、後の外モンゴルの基礎を築きました。「七旗」は名称であって、実際には十三部族から構成されていました。

七旗ハルハの拡大と三ハーン

ダヤン・ハーン死後、ウリヤンカイの反乱が起こると、ウリヤンハン以外の部族はこれを鎮圧し、ウリヤンハンを解体。七旗ハルハはウリヤンハンの領土を吸収し、勢力を拡大。その支配地はヘンティー山脈からハンガイ山脈にまで広がりました。勢力拡大した七旗ハルハは、ゲレセンジェの子孫であるアシハイ、ノーノホ、アミンドラルの系統を中心に、右翼と左翼の二大勢力に分かれ、それぞれが独自のハーンを擁するようになります。ノーノホの子孫であるアバダイはオイラトを破り、エルデネ・ゾーを建設。ダライ・ラマ三世から称号を授かり、ハルハ最初のハーンとなりました。彼の系統は「トシェート・ハーン家」となり、アシハイの孫ライフル・ハーンの系統は「ジャサクト・ハーン家」、アミンドラルの子孫は「チェチェン・ハーン家」となり、これら三家が「三ハーン」として知られるようになります。また、アシハイの孫ウバシはアルタン・ハーンを名乗り、ロシアとの関係を築きました。

清朝との関係とジュンガルとの抗争

1635年、北元のエジェイが後金（のちの清）に降伏。これにより、ハルハを除くモンゴル部族は清の支配下に置かれます。清の脅威に対抗するため、ハルハとオイラトは同盟を結び、「ハルハ・オイラト法典」を制定し、抗争を収めました。しかし、内紛やロシアの進出、ジュンガルとの抗争など、ハルハを取り巻く情勢は依然として複雑でした。1688年にはジュンガルのガルダンがハルハに侵攻し、大敗北を喫したハルハの人々は清の保護を求めて南下しました。その後、ハルハの諸ハーンは清に臣従を誓い、清の支配下に入りますが、彼らは完全な臣民ではなく、朝貢部族として独立性を保ちました。

ロシアの進出と清の支配強化

17世紀、ロシア帝国はシベリアに進出し、モンゴルにも侵入してきます。ロシアの進出は、ハルハの領土と属民の奪取を招き、ハルハは何度もロシアに抗議しました。しかし、効果がなく、1680年代には軍事衝突も発生します。ハルハの内部抗争もジュンガルによる侵略を招き、その混乱に乗じて1691年、ハルハは正式に清朝に服属します。清はジュンガルを討伐し、ハルハの遊牧地を回復しますが、18世紀初頭にもジュンガルとの衝突は続き、ハルハの諸ハーンは清の支援を得てこれを撃退しました。その後、清朝はモンゴルを八旗制度に準じた統治を行い、ハルハは「外蒙古ハルハ四部八十六旗」として編成されました。

モンゴルの独立と現代

20世紀初頭、清朝がモンゴル政策を変更すると、ハルハでは反清、反漢の感情が高まり、1911年、ハルハの王公たちはジェブツンダンバ八世をボグド・ハーンとして擁立し、清からの独立を宣言しました。ボグド・ハーン政権は1924年にモンゴル人民共和国となり、1992年に現在のモンゴル国となりました。現代モンゴル国を構成する国民の大半は、ハルハの子孫です。

ハルハの部族と歴代部族長

ハルハは五部ハルハと七旗ハルハに大別され、それぞれが複数の部族から構成されていました。各部族には、長年に渡り多くの部族長がいました。その系譜は複雑で、多くの文献に記録が残されていますが、ここでは詳細な記述は割愛します。

まとめ

ハルハの歴史は、モンゴル高原における遊牧民社会のダイナミズムと、周辺勢力との複雑な関係を示す歴史です。ダヤン・ハーンによる部族再編、清朝との朝貢関係、ジュンガルとの抗争、そして近代における独立と国家形成。これらの出来事は、現代モンゴル国の成立に深く関わっており、その歴史を理解することは、モンゴルを知る上で非常に重要です。

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