リンド (北欧神話)

北欧神話のリンド：オーディンの謎めいた女性

北欧神話に登場するリンド(古ノルド語: Rindr)は、オーディンの子を産んだ女性として知られています。しかし、彼女の出自や役割については、複数の史料によって異なる解釈が提示されており、未だ多くの謎に包まれています。本稿では、主要な史料に基づき、リンドを取り巻く複雑な物語を考察します。

『エッダ』におけるリンド

『古エッダ』の『バルドルの夢』では、リンドが産んだヴァーリが、神バルドルの殺害者ヘズに復讐すると予言されています。この記述から、リンドは運命の歯車に重要な役割を果たす存在であることが伺えます。一方、『スノリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』では、リンドはアース神族の一員として数えられていますが、巨人である可能性も示唆されています。これらの記述から、リンドは神や巨人といった超自然的な存在と、深い関わりを持つ人物であった可能性が考えられます。

『デンマーク人の事績』におけるリンド

サクソ・グラマティクスの『デンマーク人の事績』は、リンド（リンダ）をルテニア（ロシア）王の娘として描いています。この史料において、オーディン（オーティヌス）はバルドル（バルデルス）の復讐者としてリンドとの間に子をもうけようとしますが、リンドはそれを拒絶します。オーディンは強引な手段に出ますが、その結果として王位を追われます。最終的にリンドは、ヘズ（ホテルス）への復讐を誓うボーウスを産みます。この記述は、『エッダ』とは異なるリンド像を示しており、神話の解釈の多様性を示す一例と言えるでしょう。

リンド像の多様性と解釈

『エッダ』と『デンマーク人の事績』におけるリンド像は大きく異なります。『エッダ』では、運命に関わる神格的な存在として描かれる一方、『デンマーク人の事績』では、人間的な葛藤と決断を持つ女性として描かれています。この違いは、史料の成立背景や、それぞれの著者の意図を反映している可能性があります。あるいは、同じ人物を異なる視点から描いた結果であるとも考えられます。

未解明の謎と今後の研究

リンドに関する記述は断片的であり、彼女の出自、役割、そして神格としての属性すら、明確には解明されていません。今後の研究においては、既存の史料の更なる分析に加え、関連する考古学的、言語学的知見を統合することで、より詳細なリンド像を構築していくことが期待されます。北欧神話研究において、リンドは依然として魅力的な謎であり、新たな発見や解釈が待たれる存在と言えるでしょう。

参考文献

原典資料:
『古エッダ』
『スノリのエッダ』
サクソ・グラマティクス『デンマーク人の事績』
二次資料:
V.G.ネッケル他 編『エッダ - 古代北欧歌謡集』(谷口幸男訳)
ストレム, フォルケ『古代北欧の宗教と神話』(菅原邦城訳)
パウルソン、ヘルマン『オージンのいる風景 - オージン教とエッダ』(大塚光子、西田郁子、水野知昭、菅原邦城訳)

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