リーゼ・スティーヴンス

リーゼ・スティーヴンス

アメリカの著名なメゾソプラノ歌手、リーゼ・スティーヴンス（Risë Stevens）は、1913年6月11日にニューヨークでリーゼ・ガス・スティーンバーグとして生を受けました。彼女はその生涯を通して音楽界に貢献し、惜しまれつつ2013年3月20日にこの世を去りました。

音楽の道に進んだ彼女は、ニューヨークのジュリアード音楽院で基礎を学び、さらなる研鑽を積むためにウィーンへ留学しました。当地では、往年の名ソプラノであり教育者としても名高いマリー・グートハイル＝ショーダーらに師事し、その技術と表現力を磨きました。

オペラ歌手としての本格的なキャリアは、1936年にプラハで幕を開けました。そこでマスネのオペラ『ミニョン』のタイトルロールを歌い、成功を収めます。故郷ニューヨークのメトロポリタン歌劇場には、そのわずか2年後の1938年にデビューを果たしました。これを皮切りに、メトを拠点としながら輝かしい活動を展開していきます。

特に彼女のキャリアにおいて黄金期となったのは、1940年代から1950年代にかけてです。この時期、ビゼーのオペラ『カルメン』のタイトルロールは彼女の最も得意とする役となり、その情熱的で魅力的な解釈は多くの聴衆を魅了し、批評家からも絶賛されました。彼女の『カルメン』はまさに彼女の代名詞ともいえる存在となりました。

『カルメン』以外にも、彼女のレパートリーは非常に幅広く多岐にわたります。リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』のオクタヴィアン、ワーグナーの楽劇『ワルキューレ』や『ラインの黄金』、『ジークフリート』におけるフリッカやエルダ、モーツァルトの『フィガロの結婚』のケルビーノ、サン＝サーンスの『サムソンとデリラ』のデリラなど、様々な時代の作曲家の重要な役柄を演じました。また、ムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』やスメタナの『ホヴァーンシチナ』といったスラヴ・オペラ、フンパーディンクの『ヘンゼルとグレーテル』、J.シュトラウス2世のオペレッタ『こうもり』、グルックの『オルフェオとエウリディーチェ』、オッフェンバックの『ホフマン物語』といった多様な作品に出演しています。

オペラの舞台だけでなく、リーゼ・スティーヴンスはメディアを通じた活動も積極的に行いました。映画にも出演しており、ビング・クロスビー主演のヒット作『我が道を往く』（1944年）や、彼女自身として登場した『カーネギー・ホール』（1947年）などでその姿を見ることができます。さらに、舞台ミュージカルにも出演するなど、活動の場をオペラ以外にも広げました。

その長年の功績は高く評価され、1990年にはアメリカ合衆国の芸術分野で最も権威ある賞の一つとされるケネディ・センター名誉賞を受賞しました。

彼女の豊かな声と卓越した表現力は、多くの録音として今も残されています。特に『ミニョン』、『ヘンゼルとグレーテル』、『カルメン』、『フィガロの結婚』、『オルフェオとエウリディーチェ』、『こうもり』などのオペラ全曲録音や、複数の『カルメン』や『サムソンとデリラ』の抜粋録音などが知られており、これらを通じて後世のファンも彼女の歌声を堪能することができます。

リーゼ・スティーヴンスは、その才能と努力によって20世紀のアメリカオペラ界において確固たる地位を築き上げ、今なお多くの人々に記憶される偉大なメゾソプラノ歌手です。

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