ルイ＝エミール・ベルタン

ルイ＝エミール・ベルタン：日本の近代海軍を築いたフランスの天才技術者

ルイ＝エミール・ベルタン（1840年-1924年）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したフランス海軍の技術者です。革新的な艦船設計で知られ、特に日本の近代海軍建設に多大な貢献を果たした人物として、国際的に高い評価を受けています。

青年時代と海軍技術者としてのキャリア

フランスのナンシーに生まれたベルタンは、エコール・ポリテクニークを卒業後、海軍技術者としての道を歩みます。師であるアンリ・デュピュイ・ド・ロームの影響を受け、従来の常識にとらわれない革新的な艦船設計を追求しました。その才能はすぐに認められ、国際的な艦艇設計技師として名声を確立します。さらに法律の博士号を取得するなど、多才な一面も持ち合わせていました。

日本における活躍と近代海軍の建設

1886年から1890年にかけて、ベルタンは日本の要請を受け、お雇い外国人として来日します。4年間の在日中に、彼は日本の技術者や造船技師を育成し、近代的な軍艦の設計・建造、海軍施設の建設を指導しました。

ベルタンの設計による艦船は、当時の日本海軍の主力として日清戦争で活躍します。特に「松島型防護巡洋艦」3隻は、強力な主砲を搭載し、日本艦隊の勝利に大きく貢献しました。呉、佐世保の造船所建設も指揮し、日本の近代造船業の発展にも寄与しました。

しかし、ベルタンの日本での活動は、常に政治的陰謀の影にありました。イギリスやドイツを支持する勢力や、フランスへの不信感を抱く勢力の存在が、彼の地位を脅かすこともしばしばありました。彼の設計は、当時まだ実証されていなかった「青年学派」の思想に基づいていたため、懸念を持つ者も少なくありませんでした。

にもかかわらず、ベルタンの努力は大きな成果を生み出しました。黄海海戦での勝利は、彼の設計した艦船の能力を証明するものでした。伊東祐亨提督からの感謝状は、その功績を物語っています。明治天皇から旭日章を授与されたこと、西郷従道海軍大臣からの称賛も、彼の貢献の大きさを示しています。

ベルタンは日本滞在中に、7隻の主力艦と22隻の水雷艇を設計・建造しました。主な艦船としては、松島型防護巡洋艦3隻（「松島」、「厳島」、「橋立」）、小型巡洋艦2隻（「千代田」、「八重山」）、軽巡洋艦1隻（「千島」）、フリゲート1隻（「高雄」）、水雷艇16隻などがあります。これらの艦船は、日本海軍の近代化に大きな役割を果たしました。

帰国後と晩年

日本から帰国後、ベルタンはフランス海軍機関学校の校長に就任しました。その後も海軍の要職を歴任し、海軍艦政本部長として、フランス海軍の近代化に貢献しました。フランス海軍が世界第二位の規模になったのは、彼の尽力によるところも大きいです。

晩年は、青年学派の支持者としての立場から、同僚の設計を批判することもありました。「ブーヴェ」戦艦の沈没は、彼の批判の正当性を証明する結果となりました。1903年には、フランス学士院会員に選ばれています。

ベルタンの遺産と評価

ベルタンの設計思想は、日露戦争頃には前弩級戦艦の登場によって時代遅れとなりました。しかし、彼が日本に残した真の遺産は、呉と佐世保の近代的な造船所です。これらの造船所は、第一次世界大戦においてフランス海軍に駆逐艦を供給する役割を果たしました。

彼の功績を称え、フランス海軍の軽巡洋艦に「エミール・ベルタン」と命名されました。また、船舶の揺れに関する研究でも知られています。

ベルタンは、艦船設計や航海術に関する数多くの著書も残し、その業績は現代にも影響を与えています。彼の生涯は、近代海軍技術の発展に大きく貢献した、稀有な天才技術者の物語と言えるでしょう。

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