ルキウス・アエミリウス・バルブラ

ルキウス・アエミリウス・バルブラ

ルキウス・アエミリウス・バルブラ（ラテン語: Lucius Aemilius Barbula）は、共和政ローマにおけるパトリキ（貴族）階級出身の著名な政治家であり軍人でした。特に紀元前3世紀初頭のイタリア半島を舞台とした激動期に活躍し、紀元前281年には国家の最高職である執政官（コンスル）を務めています。

彼の執政官就任に先立つ紀元前282年、ローマとイタリア半島南部の主要なギリシャ系都市であるターレス（現在のターラント）との間で深刻な緊張が生じました。ローマ船がターレス近海に寄航しようとした際、ターレスの艦隊によって攻撃を受け、略奪されたのです。この事態に対して、ローマは真相究明と交渉のため外交使節団をターレスに派遣しましたが、使節団は傲慢な態度で迎えられ、公然と侮辱されるに至りました。この一連の出来事は、両者の関係を決定的に悪化させました。

ローマの元老院はこの状況を重く見て、当時サムニウム人との戦いを指揮していた執政官ルキウス・アエミリウス・バルブラに対し、直ちに軍を率いてターレスへ向かうよう命じました。彼の任務は、まずターレスと再交渉を試みることでしたが、もし彼らが交渉を拒否するようであれば、ためらうことなく宣戦布告を行い、武力をもって対応することと指示されました。バルブラは元老院の命令に従い、軍を転進させてターレスに進攻しました。

ターレス側は、ローマとの再度の話し合いに応じることを拒みました。自らの力だけでは強大なローマ軍に対抗できないと考えたターレスは、エペイロス王ピュロスに援軍を要請するという重大な決断を下します。この動きを察知したバルブラは、ピュロスの軍がイタリアに到着する前に事態を決着させるべく、ターレスに対する軍事行動を開始しました。彼はターレス軍との野戦において決定的な勝利を収めるとともに、周辺の幾つかの都市を制圧し、ターレスを圧迫しました。

しかし、ピュロスの先遣隊を率いるミロがイタリア半島に上陸すると、バルブラの軍は海岸沿いの非常に狭い道で、待ち伏せともいえる攻撃を受けました。その道は片側が険しい山に阻まれ、もう一方の側はターレスの艦隊が海上から矢を浴びせてくるという、ローマ軍にとって極めて不利な地形でした。絶体絶命とも思える状況の中、バルブラは奇策を用いました。彼は捕虜としていた多数のターレス兵を自軍の側面に配置したのです。これは、ターレス軍が同胞を傷つけることをためらうよう仕向けるための巧妙な心理戦術でした。この策は功を奏し、ターレス軍の攻撃が鈍った隙に、バルブラは自軍を安全な場所へ撤退させることに成功しました。

執政官としての任期が終了した後も、ルキウス・アエミリウス・バルブラはプロコンスル（前執政官）として引き続きイタリア半島南部における軍事作戦の指揮を執りました。彼はターレスとの戦いを継続し、またサムニウム人やメサッピア人に対する軍事行動でも成功を収めました。これらの目覚ましい勝利を記念して、紀元前280年にはローマ市内で盛大な凱旋式が挙行されました。

軍事・政治の両面で活躍したバルブラは、後年の紀元前269年には国家の財政と市民の道徳を監督する重要な役職である監察官（ケンソル）も務めています。

彼の経歴は、共和政ローマがイタリア半島を統一していく過程、特にピュロス戦争という未曽有の危機に直面した時代の重要な一局面を映し出しています。困難な状況下での巧みな軍事指揮や、国家の要職を歴任したことは、彼が当時のローマ社会において高い評価を得ていたことを示しています。

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