ルキウス・リキニウス・クラッスス

ルキウス・リキニウス・クラッスス：共和政ローマの雄弁家

ルキウス・リキニウス・クラッスス（紀元前140年 - 紀元前91年）は、共和政ローマ期に活躍した政治家であり、卓越した弁論家として名を馳せました。彼は弁論術だけでなく、その政治手腕によっても歴史に名を刻んでいます。

生い立ちと家族

リキニウス氏族は古くからローマ社会で重要な役割を果たしており、クラッスス家からは紀元前205年にプブリウス・リキニウス・クラッスス・ディウェスが初めて執政官に選出されています。クラッスス自身は、このディウェスの兄弟の家系に連なると考えられています。

彼の義父はスカエウォラ・アウグルであり、クラッススは義父からガイウス・ラエリウス・サピエンスとスキピオ・アエミリアヌスの友情について聞かされ、大きな影響を受けました。義父を尊敬するあまり、執政官選挙でのなりふり構わぬ姿を見たくないと願ったという逸話も残っています。

キケロの記録によれば、クラッススはクィントゥス・カエピオとガイウス・ラエリウスが執政官を務めた年に生まれました。キケロ自身も、幼少期にクラッススの友人であるギリシア人学者から教えを受け、クラッススが彼らとギリシャ語で議論する様子を目の当たりにしています。

政界での活躍

クラッススは、青年期から訴追人としてその才能を発揮し、ガイウス・パピリウス・カルボを告発しました。紀元前118年には、植民市建設三人委員に選出され、ナルボの建設に携わっています。紀元前114年には、ウェスタの処女リキニアを弁護し、その弁論術で人々を魅了しました。

紀元前107年には護民官に選出され、紀元前106年にはセルウィリス審判人法の成立に貢献しました。キケロは、大カエピオの時代のクラッススの演説を模範として暗唱していたと伝えられています。

紀元前105年から100年の間には、同僚のスカエウォラ・ポンティフェクスと共にアエディリス・クルリスに選出され、盛大な催し物を開催しました。紀元前95年には、スカエウォラ・ポンティフェクスと共に執政官に選出され、「リキニウス・ムキウス法」を制定し、ローマ市民権を持たない人々の取り締まりを強化しました。

ケンソルとしての活動

紀元前92年には、ケンソルに選出されましたが、同僚のグナエウス・ドミティウス・アヘノバルブスとは不仲でした。二人は互いの贅沢な暮らしぶりを非難し合い、また、当時のラテン語修辞学教室を閉鎖させるなど、保守的な政策を推進しました。

晩年と死

紀元前91年、護民官マルクス・リウィウス・ドルススの改革案を支持しましたが、ルキウス・マルキウス・ピリップスの反対に遭いました。クラッススは、ドルススの改革案を支持したまま、胸膜炎によりこの世を去りました。

弁論家としての評価

クラッススの弁論術は、キケロによって高く評価されており、彼の演説は人々の心を捉え、政治を動かすほどの力を持っていました。キケロは、クラッススの弁論を「白鳥の歌」と称え、その死を惜しんでいます。

人となり

クラッススは、負けず嫌いな性格であり、ユーモアを交えた弁論で人々を魅了しました。また、食道楽としても知られており、牡蠣を毎日食べるために公有地を不法占拠した人物を訴えた際には、ユーモラスな発言で人々を笑わせました。

家族

妻ムキアとの間に二人の娘をもうけました。一人はプブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカに、もう一人はガイウス・マリウスの子、小マリウスと結婚しています。

ルキウス・リキニウス・クラッススは、共和政ローマの激動の時代を生き抜き、弁論術と政治手腕によって歴史に名を残した人物です。彼の業績は、後世の政治家や弁論家に多大な影響を与えました。

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