ルッジェーロ (架空の人物)

ルッジェーロは、イタリアの叙事詩『狂えるオルランド』に登場する重要な人物であり、物語のもう一人の主人公とも言える存在です。彼は、エステ家の始祖とされており、その波乱に満ちた生涯は、多くの人々に語り継がれています。マッテーオ・マリーア・ボイアルドの未完の叙事詩『恋するオルランド』にも登場し、英語ではロジェロ(Rogero)と翻訳されることがあります。

生い立ちと運命

ルッジェーロは、ヘクトールの子孫であるレッジョ・ディ・カラブリアの騎士と、アフリカ王アグラマンテの娘との間に生まれました。しかし、父はルッジェーロの母が妊娠中に陰謀によって殺害され、ルッジェーロと双子の妹マルフィーザは魔法使いアトランテによって養育されることになります。マルフィーザは7歳の時に生き別れ、成人するまで再会することはありませんでした。

イスラム軍とシャルルマーニュ軍との戦いにおいて、ルッジェーロは自らの出自を知らないままイスラム軍に従軍します。そこで彼は、シャルルマーニュの姪であるブラダマンテと恋に落ちますが、敵同士であるという宿命と、養父アトランテの妨害により、二人の恋路は困難を極めます。アトランテがルッジェーロの恋愛を邪魔したのは、ルッジェーロがキリスト教の洗礼を受けると裏切りに遭い殺されてしまうという運命を予知していたためでした。しかし、最終的には、ルッジェーロとブラダマンテは結ばれ、彼らの子孫がエステ家となるのです。この設定は、ヘクトルの血を受け継ぐクレルモン家のブラダマンテとルッジェーロが結ばれることで、エステ家の血統を正当化し、賛美する意図がありました。

冒険と英雄譚

ルッジェーロは物語の中で、数々の冒険を繰り広げます。彼は魔法を無効化する魔剣ベリサルダを入手し、ヒッポグリフに騎乗して、魔法の盾で海の怪物オルクを退治するという有名なエピソードがあります。このエピソードは、ヒッポグリフをペガサスに、魔法の盾をゴルゴーンの首に置き換えると、ギリシア神話のペルセウスの冒険と非常に似た構造を持つことがわかります。しかし、ルッジェーロが助けた姫が、彼が持っていた魔法の指輪を盗んで逃走するという、一種のパロディ的な展開が用意されています。ちなみに、オルクの皮は非常に厚く、ルッジェーロ自身はオルクを殺すことができませんでした。

物語の終盤では、ルッジェーロはブルガリアの王となり、ブラダマンテとの結婚によって物語は幕を閉じます。しかし、その7年後、彼はマガンツァ家のピナベルとベルトラルージによって殺害されるという濡れ衣を着せられ、暗殺されるという運命にあることが示唆されます。ただし、彼の仇はブラダマンテとマルフィーザによって討たれることが予言されています。

後世への影響

ルッジェーロの物語は、後世の文学や芸術に大きな影響を与えました。特に、彼が魔女アルチーナ（『オデュッセイア』のキルケーに相当する人物）に囚われ、そこから脱出する物語は、オペラの題材として頻繁に用いられています。例えば、フランチェスカ・カッチーニの『ルッジェーロの救出』や、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの『アルチーナ』などがその代表例です。

ルッジェーロは、その数奇な運命と、愛と勇気に彩られた生涯を通して、多くの人々に感動と影響を与え続けています。彼の物語は、叙事詩の枠を超え、今日においても様々な形で語り継がれています。

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