ルパート (カンバーランド公)

ライン宮中伯ルパート：イングランド内戦の英雄と王政復古期の多才な人物

ライン宮中伯、バイエルン公、初代カンバーランド公、初代ホルダネス伯といった数々の称号を有したルパートは、17世紀のヨーロッパを舞台に波乱に満ちた生涯を送ったイングランドの軍人です。三十年戦争下の複雑な政治状況の中で生まれ育ち、イングランド内戦では王党派の中心的存在として活躍、王政復古後も海軍卿として、そして科学や植民地事業にも貢献しました。

出自と若き日の経験

ルパートは、1619年、三十年戦争の最中にプラハで誕生しました。父はプファルツ選帝侯でありボヘミア王でもあったフリードリヒ5世、母はイングランド王ジェームズ1世の娘エリザベス・ステュアートです。王族としての出自と、ヨーロッパを揺るがした戦争の渦中に身を置いた幼少期は、彼の生涯に大きな影響を与えました。父がボヘミア王位を追われ、家族と共にオランダに亡命した経験は、彼を鍛え、将来の軍事的才能を育む土壌となったと言えるでしょう。

オランダで育ったルパートは若くして軍人となり、大叔父であるオランダ総督フレデリック・ヘンドリックの下で八十年戦争に参戦。ブレダ包囲戦にも参加するなど、実践的な軍事経験を積んでいきます。その後、母方の祖国のイングランドへ渡り、そこで彼の人生は新たな局面を迎えることになります。

イングランド内戦での活躍と「気狂い騎士」の異名

1642年、イングランド内戦が勃発すると、ルパートは母方の叔父にあたるチャールズ1世に仕える道を選びます。国王軍の騎兵隊を率いた彼は、パウィック橋の戦い、エッジヒルの戦いなどで輝かしい戦果を挙げ、国王からの絶大な信頼を得ます。その勇猛果敢な戦いぶりから「気狂い騎士（Mad Cavalier）」の異名をとるようになります。

しかし、彼の軍事手腕は常に称賛されたわけではありません。国王軍内部での軋轢や、マーストン・ムーアの戦いでの敗北など、苦い経験も積みます。この戦いで、彼は議会軍のクロムウェルを「剛勇の人（Old Ironsides）」と称賛し、後にクロムウェルの率いる精鋭騎兵隊の名前に転用されることになります。

その後も、ブリストル占領、グロスター包囲など、イングランド各地で戦闘に参加。カンバーランド公、ホルダネス伯に叙されるなど、その功績は高く評価されました。マーストン・ムーアの戦いで戦死した愛犬「ボーイ」とのエピソードも、彼の生涯を語る上で欠かせないものです。

ネイズビーの戦いでの敗北と捕虜生活を経て、ルパートはイングランドを離れ、亡命生活を送ることになります。

亡命生活と海軍卿としての活躍

亡命中は、フランスやオランダで活動し、時には海賊行為にも手を染めます。弟モーリッツと共にイングランド王党派の海軍を指揮し、共和国の海軍と激しい戦闘を繰り広げます。しかし、嵐による艦隊の損害や、モーリッツの行方不明といった困難にも遭遇します。

王政復古後、ルパートはイングランドへ帰国。チャールズ2世の信頼を取り戻し、枢密院入りを果たします。そして、再びイングランドのために、今度は海軍卿として活躍します。第二次、第三次英蘭戦争では、オランダ海軍との海戦で重要な役割を果たし、イングランド海軍の勝利に貢献しました。

王政復古期後半と晩年

軍事活動から退いた後は、科学や植民地事業に情熱を注ぎます。王立協会の創立メンバーとして名を連ね、科学実験に没頭する一方、ハドソン湾会社の初代総督として、カナダの広大な領土「ルパート・ランド」の開発にも関与しました。

1682年、ロンドンで死去。ウェストミンスター寺院に埋葬されました。嫡子はなく、カンバーランド公位は断絶しましたが、愛人との間に生まれた庶子はその後も生きていました。

ルパートの人生は、戦争、政治、科学、植民地経営と、多岐に渡る分野で活躍した稀有な人物像を示しています。その生涯は、激動の時代を生きた一人の王族の物語として、そしてイングランドの歴史の一端として、後世に語り継がれるにふさわしいものです。

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