ルーシ人

ルーシ人の歴史とその影響

ルーシ人とは中世から近世にかけて東欧に居住した東スラヴ系の民族で、特にウクライナ人およびベラルーシ人の祖先とされています。彼らの移り変わるアイデンティティと、その歴史的背景を探ってみましょう。

ルーシ人の起源と初出

「ルーシ人」という言葉が初めて記されたのは911年と945年のルーシとビザンツの諸条約の中で、当初はキエフ大公国の支配階級であった北欧系ルーシ族を指していました。しかし、10世紀になると東欧系スラヴ人、特にキエフ周辺の住民を表す言葉に変わっていきます。11世紀から14世紀までは、キエフ大公国やその後継者の人々がルーシ人と呼ばれました。彼らは正教徒であり、他の民族とは異なる文化を持っていたため、独自のアイデンティティを維持していました。

政治的な変動とルーシ人のアイデンティティ

13世紀にモンゴル帝国によってキエフ大公国が滅ぼされた後、ルーシ人はハールィチ・ヴォルィーニ大公国の支配下に置かれました。この地域も14世紀末にはリトアニアとポーランドに分割されました。しかし、ここで重要なのは、政治的分裂の中で、ルーシ諸公国間での正教という共通の精神的繋がりが存在したことです。この宗教的な結束は、モスクワ国家の中央集権化とともに変容していきました。

ポーランド・リトアニア時代の影響

ハールィチ・ヴォルィーニ地方では自己意識を強く持った支配層がルーシの地の盟主として存在し続けましたが、その後のリトアニア大公国やポーランド王国の支配下で彼らの伝統は次第に影響を受けていきました。リトアニアは現地の文化を受け入れる形で統治を行った一方で、ポーランドは自国の文化を押し付ける政策を採り、これが現地住民との軋轢を生む結果となりました。

特に、16世紀以降の宗教改革がもたらした影響は大きく、ルーシ人たちはこの時期中にコサック運動に身を投じることになります。この運動の中で、ウクライナとベラルーシのルーシ人は次第に民族意識を高めていき、特にウクライナでは独自のコサック国家が形成されるに至ります。

18世紀の分割とその後の展開

18世紀末、ポーランド・リトアニア共和国の分割によって、ルーシ人はロシア帝国およびオーストリア＝ハンガリー帝国に分かれてしまいます。ロシアは彼らを「小ロシア人（ウクライナ人）」や「白ロシア人（ベラルーシ人）」として位置づけましたが、オーストリアでは「ルテニア人」としての名称が名残りました。ハプスブルク帝国は、ルテニア人の民族文化復興運動を抑圧するようなことはほとんどせず、彼らは独自の民族アイデンティティを形成していったのです。

20世紀の変化

20世紀初頭には、ウクライナ民族解放運動が盛んになり、ルーシ人や小ロシア人といった名称が「ウクライナ人」という名称に統一されました。この運動は、地域ごとに異なる歴史的背景を持ちながらも、民族意識の強い均一化を生み出すことに成功しました。1917年には、ウクライナとベラルーシが国名に含まれる国家が誕生し、各民族はそれぞれの国民としてのアイデンティティを確立しました。

まとめ

ルーシ人の歴史は民族のアイデンティティの変遷と密接に結びついています。彼らはさまざまな政治的変動や文化的影響を受けながらも、独自の歴史を持ち続け、現在のウクライナ人とベラルーシ人の形成に寄与しました。このように、ルーシ人の系譜は東欧の歴史の中で重要な役割を担い、複雑な民族関係を新たに構築していく土台を築いたのです。

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