ルーマ

ルーマ：映像信号の明るさを表す輝度信号

映像の世界において、ルーマ(luma)は画像の明るさ、つまり輝度を表す重要な要素です。白黒テレビの信号に相当し、カラー映像では色情報（クロマ）と組み合わせて画像を構成します。人間の目は、色の違いよりも明るさの変化に対して敏感であるため、この特性を利用したデータ圧縮技術が用いられています。

ルーマとクロマ、そしてクロマ・サブサンプリング

カラー映像は、一般的に赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色信号(RGB信号)で表現されます。しかし、これをそのまま扱うとデータ量が膨大になります。そこで、人間の視覚特性を利用して、色情報（クロマ）の解像度を下げるクロマ・サブサンプリングが用いられます。

ルーマは、RGB信号から算出される無彩色成分です。クロマは、RGB信号からルーマ成分を除いた色差成分で、色の情報を表します。クロマ・サブサンプリングを行うことで、色情報のデータ量を削減し、少ない帯域幅で映像を送信・保存できます。結果として、限られた帯域幅の中で、より精細な明るさの表現が可能になります。

ルーマと相対輝度：微妙な違い

ルーマと混同されやすいのが、[相対輝度]です。どちらも明るさを表す指標ですが、明確な違いがあります。ルーマはガンマ圧縮されたRGB信号の加重平均で計算され、ビデオ技術で使用されます。一方、相対輝度はガンマ補正されていない線形なRGB信号の加重平均で、色彩科学で使われます。

ガンマ圧縮とは、人間の視覚特性に合わせて信号を非線形に変換する処理です。明るい部分は圧縮され、暗い部分は伸張されます。これにより、人間の知覚に合わせた階調表現が可能になります。

SMPTE EG 28では、ルーマをY'、相対輝度をYと表記することが推奨されています。この区別は重要で、用語の混同を防ぐために注意が必要です。

さまざまな規格とルーマ係数

ルーマの計算式は、使用する規格によって異なります。代表的なものとして、Rec. 601、Rec. 709、SMPTE 240Mなどがあります。それぞれの規格では、RGB信号に対するルーマ係数が異なり、これによって最終的な映像の色表現に影響を与えます。

例えば、Rec. 601では、

Y'₆₀₁ = 0.299R' + 0.587G' + 0.114B'

Rec. 709では、

Y'₇₀₉ = 0.2126R' + 0.7152G' + 0.0722B'

と計算されます。これらの係数の違いは、RGBの原色定義の違いを反映しています。

最新のHDTVシステムはRec. 709を使用することが多いですが、移行期にはSMPTE 240Mが使われている場合もあります。これらの規格間の違いは、色再現性の差異につながり、機器間の互換性問題を引き起こす可能性があります。特に、民生機器ではコスト削減のために変換回路が省略されることがあり、色再現性の誤差が生じる場合があります。

ルーマの限界とクロマのエラー

ルーマは画像の明るさを表す指標ではありますが、クロマ（色差信号）の誤差がルーマに影響を与えることがあります。クロマ・サブサンプリングによって解像度が低下すると、高周波のクロマ成分が輝度成分に影響を与え、画像に目に見えるアーティファクトが発生する可能性があります。

例えば、SMPTEカラーバーテストパターンの緑とマゼンタのバーの間の境界線では、輝度誤差によるダークバンド（暗い帯）が観察される場合があります。これは、クロマ・サブサンプリングによって高周波成分が失われた結果、輝度に影響が現れたものです。

正確な輝度表現には、正確なルーマとクロマの両方が必要であり、ルーマだけでは輝度を完全に表現することはできません。クロマのエラーは、結果として画像全体の輝度に影響を与えるという点に留意する必要があります。

まとめ

ルーマは、映像信号における明るさを表す重要な要素です。クロマとの組み合わせ、そしてクロマ・サブサンプリングによるデータ圧縮技術は、現代の映像システムを支える重要な技術です。しかし、ルーマと相対輝度の違い、そして様々な規格によるルーマ係数の違いを理解することで、より正確な映像処理や、機器間の互換性の問題を回避する上で役立ちます。また、クロマの誤差がルーマに影響を与える可能性も考慮する必要があります。

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