Rec. 709

ITU-R BT.709: 高精細テレビジョン放送の国際規格

ITU-R BT.709 (Rec. 709としても知られる)は、国際電気通信連合(ITU)によって策定された、高精細度テレビジョン放送における映像信号の特性や符号化方式に関する標準規格です。最新版であるBT.709-6は2015年に公開され、世界共通のHDTV規格を目指して、画像の特性、フレームレート、色空間、デジタル表現方法などを詳細に規定しています。

規格の経緯

BT.709の最初のバージョンは1990年にCCIR (国際無線諮問委員会)で承認され、世界共通のHDTV規格を目指した取り組みでした。その後、CCIRがITUへと移行し、1993年にはBT.709-1が公開されました。しかし、初期のバージョンには未解決の問題も多く、世界的なコンセンサス形成には至りませんでした。そのため、1125/60や1250/50といった初期のHDTVシステムも、2002年のBT.709-5までは規格の一部として含まれていました。BT.709-6では、これらの旧来のシステムは削除され、1920x1080画素、16:9のアスペクト比を標準として定義しています。

画像特性と解像度

BT.709-6では、フレームレートに依存しない画像特性として、Common Image Format (CIF)を定義しています。これは、1920x1080画素、総画素数2,073,600画素の画像フォーマットです。

フレームレート

BT.709は、画像サイズとフレームレートを分離することで、様々なフレームレートと走査方式に対応できる柔軟性を提供しています。これにより、テレビメーカーは世界中の様々な市場に対応できる単一の受信機やディスプレイを製造・販売することが可能になりました。BT.709-6で指定されているフレームレートは以下の通りです。

24/P, 24/PsF, 23.976/P, 23.976/PsF (映画用。小数点付きはNTSCのプルダウンとの互換性のため)
50/P, 25/P, 25/PsF, 50/I (25fps) (PAL/SECAM地域用)
60/P, 59.94/P, 30/P, 30/PsF, 29.97/P, 29.97/PsF, 60/I (30 fps), 59.94/I (29.97 fps) (NTSC地域用)

(P: 順次走査、PsF: プログレッシブ・セグメント化フレーム、I: 飛越走査)

映像の取り込み、エンコード、配布

BT.709では、プログレッシブ方式とインターレース方式のいずれかで映像を取り込めます。プログレッシブ方式で取り込まれた映像は、プログレッシブ方式またはPsF方式で記録・放送・配信できます。インターレース方式で取り込まれた映像は、プログレッシブ変換を行わない限り、インターレース方式でのみ配布可能です。PsF方式で配信する場合は、セグメント/フィールド周波数がフレームレートの2倍になる必要があります。

原色色度点と伝達特性

BT.709の色空間は、赤、緑、青の原色と白色点を定義しており、CIE 1931色空間で約35.9%の範囲をカバーします。白色点はD65です。伝達特性(ガンマ)は、カメラ側のOECF/OETF（光電変換関数）のみが規定されており、暗部では線形、それ以外はべき級数関数で表現されます。表示側のガンマは明確に規定されていませんが、ITU-R BT.1885では等価ガンマ値2.4が示唆されています。sRGBとは原色と白色点が共通ですが、ガンマ値が異なります。

デジタル表現

BT.709は、R'G'B'エンコーディングとY'CbCrエンコーディングを定義しています。8ビットまたは10ビットのサンプルが使われ、8ビットエンコーディングでは、R', G', B', Y'チャンネルは16..235]、Cb、Crチャンネルは[16..240の範囲となります。0と255はタイミング基準として予約されています。10ビットエンコーディングでは、この範囲が4倍に拡張されます。

規格変換と標準画質からの変換

様々なフレームレートや色エンコーディング間の変換は、コンテンツ制作者にとって課題です。BT.709は互換性の問題を軽減しましたが、地域によるフレームレートの違いや、標準画質(SD)からの変換には、フレームレート変換、アスペクト比調整、色空間変換などの処理が必要になります。SDからの変換では、インターレース方式のモーションアーティファクトや、アスペクト比の違い、原色色度の違いへの対処が重要です。

輝度係数

Y'CbCrエンコーディングでは、輝度(Y')を計算する際に、R'G'B'係数0.2126, 0.7152, 0.0722を使用します。

変換ソフトウェア・ハードウェアとフィルムの再転写

規格変換は、ビデオ処理ソフトウェアやハードウェアで行えます。理想的には、フィルム素材から再テレシネすることで高画質の変換が可能です。

sRGBとの関係

sRGBはBT.709の後に開発され、原色と白色点は共通ですが、ガンマ値が異なります。sRGBは、明るい環境での使用を想定したガンマ値を採用しています。

関連規格

Rec. 601 (SDTV)
Rec. 2020 (UHDTV)
Rec. 2100 (HDR-TV)
* sRGB (Web/コンピューターグラフィックス)

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